February 2024
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自然に寄り添って造られる日本のワイン
国際線のファーストクラスやサミットの晩餐会などでのもてなしに採用された、おいしい日本ワインを生産するワイナリーが栃木県足利市にある。自家畑で収穫したブドウから「ブドウがなりたいワインになりますように」という思いでていねいに自然派ワインを造る。その成り立ちや魅力について話を聴いた。
東京から北へ約80km、渡良瀬(わたらせ)川や緑の山々など豊かな自然に恵まれた栃木県足利(あしかが)市にあるココ・ファーム・ワイナリー。サミットの晩餐会や、国際線のファーストクラスの機内などでも提供される、おいしい自然派のワイン造りで注目されている。取締役の池上峻(いけがみ たかし)さんに話を聴いた。
「100%日本産のブドウを使用しており、自家畑では除草剤や化学肥料を一切使っていません。また、ワインを造る際の発酵も野生酵母(天然の自生酵母)が中心。ブドウの持ち味を生かすため酸化防止剤の使用も必要最低限に抑えており、ていねいなワイン造りに努めています。今では、スパークリングワイン、白ワイン、オレンジワイン、ロゼワイン、赤ワイン、そしてデザートワインまで、24〜30種類のワインを毎年造るに至っています」。
ワイナリーを訪れると、急斜面に広がるブドウ畑がひときわ目をひく。「1958年、障がいを持つ人たちとその担任教師である川田昇(かわた のぼる)氏によって開墾されたブドウ畑です。もともとは障がいを持つ子どもたちの自立を目的として始められた畑なのです。畑は平均斜度38度という急斜面で陽あたりも水はけもよいため、ブドウの生産には好条件でした。その後に障がい者支援施設として"こころみ学園"を開園、1980年には、このワイナリーが併設され、本格的にこころみ学園のブドウを使った、ワイン造りが始まりました」。
現在でも、園生約130名が、手間ひまかけてブドウを育て、ワイン造り、あるいは山林管理などに携わっている。急斜面を上り降りしながらの農作業は、障害を持つ子どもたちの心身を鍛えるうえでも、重要な役割を果たしてきたという。
地域の人々にも支えられ、ブドウ畑は開墾から今年で66年目、ココ・ファーム・ワイナリーはスタートから44年目を迎えた。
「私たちのワインに思いを寄せて評価してくださる酒屋さんやソムリエさんのおかげもあり、たくさんの方々においしくお飲みいただけるようになりました」。
毎年11月に開催している収穫祭は年々話題となり、2023年にはおよそ1万人もの来客が足利市にあるこのワイナリーを賑わせた。「これからも自然に敬意をもって寄り添い、ブドウの魅力を最大限に発揮できるよう、ブドウの声に耳を澄ませてワインを造ってまいります」と池上さんは語る。
2000年の九州・沖縄サミットでスパークリングワイン「1996 NOVO DEMI-SEC」が採用されて以降、数々の国際会議の夕食会や、昼食会に採用されている。また、海外のワインイベントへの出品依頼や誘いも多く、積極的に受けている。昨年11月に行われたフランス・ブルゴーニュで初めて開かれた日本ワイン試飲会「第1回サロン・デ・ヴァン・ジャポネ」では、ココ・ファーム・ワイナリーのワインの魅力をアピールした。また、2024年2月にイタリアで開かれた「スローワイン*フェア」にも招かれており、出品した。
日本を訪れた際は、日本産のおいしいワインを味わうために、ぜひ、このワイナリーへ足を運んでみてほしい。
* イタリアのスローフード協会により年に一度発行されるワインのガイドブック。品質や味わいはもちろん、その土地の土壌を活かした工程などが選考基準となる。