November 2023
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カンボジア王国及びフィリピン共和国における平和構築に関する国際協力
日本は半世紀にわたり、ASEAN地域の平和と安定・繁栄のために協力してきた。独立行政法人国際協力機構(JICA)では、特に1990年代以降平和構築への取組が増加。暴力的紛争を発生・再発させない強靭な国・社会づくりに貢献し、平和で包摂的な社会を実現する活動を続けている。ここではカンボジア王国(以下「カンボジア」)の地雷除去とフィリピン共和国(以下「フィリピン」)のミンダナオ和平に関する取組を紹介する。
カンボジアは、紛争終了後30年以上経過した現在でも地雷・不発弾が残り、人口の8割が居住する農村部に集中しているため、危険であるばかりでなく、農地開発の妨げとなっている。
地雷・不発弾の処理は政府機関であるカンボジア地雷対策センター(通称:CMAC)を中心に行われており、JICAでは地雷・不発弾の処理に使用する機材の供与の他に、機材維持管理システムや地雷除去に関する情報管理システムの導入、CMACのトレーニング能力及び組織機能の強化を支援する技術協力プロジェクトを長年実施してきた。同センターに派遣中の林明仁(はやしあきひと)専門家はこう語る。
「カンボジアはオタワ条約(対人地雷禁止条約)の締約国として、2025年までに国内の対人地雷の除去を完了する義務を負っており、達成する見込みです。地雷の問題をこれだけ円滑に解決している国はないと思いますし、それを日本が支えてきたというのは国際的にも意義が大きいことだと思います」
さらにCMACはこれまでに得た知見を活かし、JICAの協力のもとラオスやコロンビア、ウクライナ等の地雷・不発弾の被害を抱える国に対する研修を行っている。支援国を通じて平和構築活動が広がった国際的にも珍しい成功例だと林さんは考えている。
「現在は、沖縄の平和祈念資料館関係者の協力のもと、カンボジアの北西部の都市・シェムリアップに建設予定のCMAC平和博物館の展示を作っていくプロジェクトを進めています。本土が戦地になった同じ痛みをもつ国同士だからこそできる協力例になるのではないかと思います」
そして、JICAの平和維持活動として特筆すべき活動に、フィリピンのミンダナオ和平に関する国際協力が挙げられる。ミンダナオ島はフィリピン諸島の南端に位置し、面積は約94,600 ㎢でルソン島に次いで2番目に大きな島だ。フィリピンからの高度な自治を求める武装勢力「モロ・イスラム解放戦線」とフィリピン政府の紛争が2003年に停戦合意に至ったことを受け、JICAは和平支援を本格的に開始。長く支援に携わるJICA職員・落合直之(おちあいなおゆき)さんは当時をこう振り返る。
「あくまで中立の立場で政府側への和平調停やミンダナオの開発支援を行いました。ミンダナオは長年の紛争による貧困問題も根深く、農業支援や医療福祉支援、インフラ整備などを行い、和平交渉を下支えするような開発を続けました。2008年に治安が悪化し停戦監視団から他国が撤退する中、JICAが継続したことで日本への信頼感が強まり、2011年にはフィリピン政府のアキノ大統領と「モロ・イスラム解放戦線」のムラド議長による初めてのトップ会談が実現しました」
その後包括的和平合意が調印され、バンサモロ暫定自治政府が実現。現地では自治政府の自立及び運営を目指した人材育成事業や法制度支援などを続けている。
「現地の方から、日本は我々と同じ目線に合わせた支援を行っているということを聞いています。同じ視座で物事に取り組み、課題を見つけて解決するJICAの共創の姿勢が信頼関係の礎になっているからこそ、民主的な紛争解決が成功したと感じています」
〈参考〉カンボジアにおけるJICAによる地雷撤去活動支援に関する国際協力の例
■「第四次地雷除去活動機材整備計画」
- 協力期間:2004年8月〜
- 概要:地雷探知機や地雷除去機などを整備支援することで、現地住民の安全な生活確保に寄与している。
■「カンボジア地雷対策センター研修複合施設及び広報施設建設計画」
- 協力期間:2022年11月(贈与契約締結)
- 概要:カンボジア地雷対策センターの研修機能を担う地雷対策技術研究所の施設及び広報施設の整備を行った。この支援により、地雷対策関係者の教育訓練環境改善や地雷問題の啓発が図られた。
参考URL
https://www.jica.go.jp/oda/project/0409300/index.html
https://www.jica.go.jp/oda/project/2260460/
〈参考〉フィリピンにおけるJICAによるミンダナオ和平と開発支援に関する国際協力の例
■「バンサモロ包括的能力向上プロジェクト」
- 協力期間:2013年7月〜2019年7月
- 概要:包括和平合意が締結されたフィリピンのミンダナオ島では、2013年から3年間を移行期間として、移行委員会が策定する基本法に基づいた暫定自治政府の設立を経て、2016年に新自治政府が設立されることとなっている。この協力では新自治政府の行政サービス(給水・道路・地場産業振興など)提供に携わる人材の育成や組織・制度の整備、地域開発計画の策定などを支援。これにより、新自治政府が行政機関としてのサービスを提供できるよう、その基盤構築に寄与した。