October 2023
- English
- 日本語
神秘的な高野山の魅力を体感する
和歌山県と奈良県の県境に近い山間にある高野山(こうやさん)は、密教*の聖地として多くの参拝客や観光客が訪れる場所だ。近年、新設、整備されたというデジタルミュージアムをはじめとする多くの取組について話を聞いた。
高野山は、和歌山県北部の紀伊(きい)半島の中央部に位置し、山々に囲まれた標高約900m、東西約 4㎞、南北約 2㎞の山上(やまがみ)盆地全体を指す地名だ。歴史的、文化的な意味合いから「高野山」と呼ばれているが、その名がついた山があるわけではない。弘法大師空海(こうぼうだいしくうかい)によって816年に創建された高野山真言宗(こうやさんしんごんしゅう)総本山金剛峯寺(こんごうぶじ)は高野山全域を敷地とし、117の大小の寺が存在しているのが特徴だ。高野山の文化観光推進事業に携わる株式会社DMC高野山の山上定(やまがみ じょう)さんはこう説明する。
「多くの参拝客、観光客が訪れますが、現在では、その約半数が海外からです。密教の聖地として海外でもその名が知られています。特にヨーロッパからの訪問者が多くなっています。金剛峯寺をはじめとした宗教施設に加え、117あるお寺のうち、約50のお寺に宿泊が可能な宿坊(しゅくぼう)があり、高野山を訪れる数多くの方々に宿を提供していることも、他の地域にはない特色かと思います」
2004年、「紀伊山地の霊場と参詣道(さんけいどう)」としてユネスコ世界遺産に登録されてから、訪れる者の数は増加傾向ではあるが、広大な敷地に多くの文化資源があることから、その様子をより分かりやすく把握して参拝や観光の一助となるように、展示するものがほとんどデジタル化された映像である高野山デジタルミュージアムを2022 年に開設した。数多くの世界遺産のVR(バーチャル・リアリティ)コンテンツ制作実績を持つ企業が、高精細デジタルアーカイブ技術を用いて高野山の中心エリア・壇上伽藍(だんじょうがらん)全体の仔細な情報を残すべく、建造物である根本大塔(こんぽんだいとう)や西塔(さいとう・普段は非公開)の内部撮影を行った。高く昇って天井部分を見近で見られる視点からの映像など、V Rならではの視覚体験による画像により、貴重な文化財の数々を楽しむことができるという。
「根本大塔の立体曼荼羅**をV Rで体験されてから、本物を見るとより理解が深まると思います」と山上さん。デジタルで視覚的に体感したあと、リアルに山中を巡ることで、五感を通じた高野山体験になる。
また、山内のそれぞれの宿坊では、宿泊することで可能となる夜間や早朝のイベント、僧侶たちの食文化や生活の一端にも触れられる。そのほかの体験プログラムも充実。森林の中の山小屋で瞑想や森林浴をする「森林セラピー」や、「阿字観(あじかん)」といわれる真言宗における独特の呼吸法、瞑想法も体験できる。中でも「阿字観道場(どうじょう)」という一般には非公開の場所で、僧侶の指導のもとでの瞑想は特別な体験になるだろう。
日本の聖地の一つ・高野山は、都会から隔絶した山中で、仏教の世界観にひたれる貴重な体験を訪れた者に提供する稀有な場所と言えよう。
* 紀元前7世紀ごろにインドで確立したといわれ、インドの仏教思想を継承しながら、土俗的、呪術性も加わり独自に発展。「秘密仏教」「秘密教」の略。日本では、9世紀初頭に真言密教を開いた弘法大師(空海) が有名。
** 曼荼羅とは、密教で説く世界観を絵のように可視化にしたもの。その表現方法は平面的な絵画に限らず、様々な手法があります。