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December 2022

エジプトの教育現場で「特活」を広める

  • エジプト日本学校 (EJS)の学級会
  • エジプト日本学校 (EJS)での授業
  • エジプト日本学校 (EJS)で掃除をする児童
  • 教員向けの特活の研修
エジプト日本学校 (EJS)での授業

国際協力機構(JICA)は、「特活」として知られる「特別活動」を中心とする日本式教育の普及を通じてエジプトの教育改革を支援している。

エジプト日本学校 (EJS)の学級会

日本の小学校、中学校、高等学校では、集団や社会の一員として、学級活動や学校行事を通して、学級や学校の生活の充実と向上、生活上の課題を解決する資質や能力を育(はぐく)むことを目指す「特別活動」(通称、「特活」)という教育活動が実施されている。例えば、児童・生徒が自分たちのクラスの課題について話し合い、解決を図る「学級会」、授業後に黒板の字を消すといった役割を一日交代で行う「日直」、給食の配膳や片付けを行う「給食当番」などがあげられる。このほかにも、教室や校庭の掃除や、生徒・児童が様々な競技を競い合う「運動会」などの学校行事など、特活は学校生活の様々な場面に及ぶ。日本の学校教育において特活は、児童・生徒の自主性や協調性などの資質を育むための重要な教育活動の一つとなっている。

こうした、日本の特活に注目したのがエジプトである。エジプトの学校は、児童・生徒数の増加によるクラスの過密化、授業における暗記や試験への偏重など、様々な要因によって協調性や規律といった社会性を育む役割を十分に果たせていないという課題を抱えている。この課題に対応する方法の一つとして、エジプト政府が学校教育に導入することを決めたのが特活であった。

「2016年に東京の小学校を視察したエルシーシ・エジプト大統領は、児童自らが協力して給食を配膳していることに、とても感銘を受けたそうです」と国際協力機構(JICA)人間開発部基礎教育チーム課長の松崎瑞樹(まつざき みずき)さんは話す。「日本の学校教育は、児童・生徒の知識の獲得のみならず、人間性や社会性の醸成にも力を入れています。そうした点を、エジプト政府は高く評価したのだと思います」

エジプト日本学校 (EJS)で掃除をする児童

エジプト政府の要請を受け、JICAは2017年からエジプト教育省と協力し、特活を中心とした日本式教育の導入を図るプロジェクトを開始した。プロジェクトの柱の一つは、「エジプト日本学校 (EJS)」の開校・運営支援である。EJSでは、1クラス当たりの児童数が最大36人と、エジプトの公立小学校の平均55人に比べると少ないことや、通常の小学校よりも広い教室面積が特徴となっている。また、他の小学校のように、長い机と椅子を複数の児童で共有するのではなく、児童一人に1組の机と椅子が用意されている。さらにEJSでは、学級会、学級指導*、日直、掃除などの学級活動や運動会などの学校行事をエジプト版特活モデルとして実施しており、プロジェクトと共に国内の多くの学校に広める事を目標としている。

2018年に35校のEJSが開校し、幼稚園1〜2年生と小学校1年生が入学した。2022年10月現在、EJSは小学校5学年までの51校に増え、約1万人の幼児・児童が学んでいる。EJSの人気は高く、昨年度の平均入学倍率は約5倍に達する。

「教員と保護者を対象にしたアンケート調査では、EJSの小学生は忍耐強さ、コミュニケーション能力、問題解決能力など『非認知能力』**において、通常の学校の小学生と比較して、よりポジティブな変化が見られるという結果が出ています」と2019年からJICAの専門家としてエジプトに派遣されている中島基恵(なかじま もとえ)さんは話す。「例えば、EJSの運動会で行われる団体競技を通じて、児童のチームワークや、学年を跨いだ学校としての一体感が向上したという話があります。こうしたことも、特活の成果の一つと言えるのではないでしょうか」

2018年には、エジプト全体の小学校1年生のカリキュラムが改訂され、全国約1万8千校の小学校で学級会、日直、学級指導などの特活が実施されることとなった。それと並行し、全国規模で特活を根付かせるため、JICAのプロジェクトでは、「特活オフィサー」の育成に力を入れている。特活オフィサーは、特活の基本理念や指導方法を小学校の教員や校長などの教育関係者に教える指導員である。JICAは、日本人の特活の専門家を講師として招いた研修セミナーを日本やエジプトで実施し、これまで約100人の特活オフィサーの育成を支援している。

そうした特活オフィサーは、今年(2022年) 6月から9月にかけて、エジプト教育省が実施した大規模な特活の研修セミナーで大活躍した。研修セミナーの参加者は、全国の教員や校長など約3万人の教育関係者。特活オフィサーが講師を担い、全国各地の会場で1回2日間の研修が繰り返し実施された。

教員向けの特活の研修

「特活オフィサーが、多くの参加者を前に堂々と特活について語る姿を見ると、今後はエジプト人の手によって特活がさらに広まっていくであろうと強く感じました。また参加者からは、研修内容はいずれも実践的で、非常に有益だったという感想が多く寄せられました」と中島さんは話す。「今後も、エジプト人自身がエジプトに合ったスタイルの特活を作り、定着させられるよう支援していきたいです」

  • * 学級指導は、手洗いや歯磨きといった基本的な生活習慣の形成、友人を思いやる気持ちといったより良い人間関係の形成など、生きるために大切なことを学び、行動する能力を身に付けることを目的とする。
  • ** 非認知能力は、テストを使って数値化することが困難な、協調性、忍耐力、創造性といった能力。