September 2022
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中津川の栗菓子
クリの特徴的な形をしている栗きんとん 中津川の栗
栗きんとんをつくる。 柔らかく煮たクリを入れた栗羊羹 栗きんとん餡をふわふわのパンケーキ状の生地に挟んだクリのどらやき

秋を代表する味覚の一つ、クリ。クリは日本の多くの場所で自生、あるいは栽培されているが、岐阜県中津川市は特に、クリと、発祥の地とされる栗きんとんで有名である。

日本には「食欲の秋」という言葉がある。秋になると木の実やキノコ、脂がのった魚類、野菜や果物など、様々な味覚が私たちの食欲をそそる。
そんな秋の味覚で人気が高いものの一つが、クリ。「栗ご飯」と言って、茹(ゆ)でたクリをコメと一緒に炊く料理もあるが、何といっても、クリの持つ素朴な甘さを生かした菓子の人気が高い。
日本では、クリの木は全国津々浦々に自生し、また栽培されているが、中でも岐阜県中津川市のクリは大粒で、品質が高いと有名だ。「栗きんとん」は、中津川を代表する菓子として名高く、蒸したクリをすり鉢でつぶして砂糖を加え、よく練ったものを茶巾と呼ばれる荒い目の布で絞ってつくる。わざわざ遠方から中津川に、それを買い求めるために足を運ぶ人も多く、各地の百貨店の食品売り場に並んだ途端、完売する。

「中津川は山間地で、秋にはおいしいヤマグリがたくさん実ります。そのため、各家庭でいつからか、おいしく食べる工夫として栗きんとんが生まれました。中津川は栗きんとん発祥の地なのです」と一般社団法人中津川観光協会の担当者は話す。
しかし、人気を誇るのは発祥の地というだけの理由ではない。
江戸時代(17世紀初頭~19世紀後半半ば)、中津川は江戸(現在の東京)と京都を結ぶ主要道だった中山道(なかせんどう)の栗料理や栗菓子で旅人をもてなす宿場町「中津川宿(なかつがわじゅく)」として栄えた。多くの俳人や歌人が訪れ、歌会や茶会などが頻繁に催され、宴には郷土料理や菓子がふるまわれたという。「その際、舌の肥えた文化人たちの風雅を極めるような要望に応え、お茶に合う菓子を模索していくうちに、栗きんとんの品質もどんどん高くなっていったのです」と担当者は言う。
20世紀初頭から、中津川では自生するヤマグリだけでなく栽培がはじまった。クリの生産量が増えるにつれて和菓子屋も増え、味を競い、切磋琢磨を繰り返し、さらなる品質の向上につながった。クリの実を潰して砂糖を加えて丸めただけの素朴な菓子だけに、クリ本来のほのかで優しい味や香りを存分に生かす経験と技があってこそ、人気を得ているのだ。
さらに、「秋の収穫期だけの限定菓子として販売されたことも希少価値を生み、雑誌、新聞などに取り上げられ全国的に知られることになりました」と担当者は話す。
中津川には他にも、羊羹の中に、柔らかく煮たクリを入れた栗羊羹や、栗きんとん餡をふわふわのパンケーキ状の生地に挟んだ栗どらやきなど、様々なクリの菓子がある。


中津川の山間地の家庭から生まれた栗きんとんは、時を経て、今や日本の秋を代表する味覚となった。栗きんとんを頬張れば、柔らかな口当たり、素朴な甘さ、ほのかな香りに、日本の秋を感じられることだろう。
