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May 2022

京都の繊細で優美な伝統漆器

  • 京漆器の碗
  • 和菓子用の京漆器の皿
  • 京漆器に盛り付けされる京懐石
  • 京漆器の三段重箱
京漆器の碗

360年余、茶道具や京料理で使う器を作り続ける京都の漆器店「象彦(ぞうひこ)」当主、十代西村彦兵衛さんに、京都の伝統漆器についてお話を伺った。

京漆器の三段重箱

京都周辺で作られる京漆器は、8世紀の後半頃には確立したとされる。奈良から京都に都が移って以降(794年~)は、貴族や僧侶、さらに近世以降には審美眼が高い茶人らからの注文に応えることで、京漆器は一層洗練されて、繊細で優美な工芸に発展していった。日本独自の表面に装飾を施す蒔絵(まきえ)*の技術も京都で進化をした。

京都市内に店舗を構える漆器の老舗(しにせ)「象彦」の当主、十代西村彦兵衛さんは「他地域のものと比べ、木地(きじ)**を極限まで薄く削り漆を塗り重ねる繊細さが、京漆器の特徴です。また形も、角をきりっと際立たせながらも、鋭く感じないよう少しだけ丸みをつけて、優しい柔らかな印象を与えます」と話す。

和菓子用の京漆器の皿

象彦の創業は1661年。三代西村彦兵衛は、19世紀初めごろ、朝廷から「蒔絵司(まきえつかさ)」の称号を受け、晩年に手掛けた蒔絵によって制作された額絵「白象と普賢菩薩(ふげんぼさつ)」は京都の人々の間で大層な評判となった。***以来、象彦では、その技術を伝承しつつ、磨いていき、京料理の器や茶道具を始め建具に至るまで多種多様な漆器を制作し、京都の様々な伝統文化を支えてきた。六代彦兵衛による1893年に開催されたシカゴ万国博覧会への出品、八代彦兵衛による1925年開催のパリ万国博覧会への出品などを機に欧米からの需要が高まり、輸出品の制作にも力を入れた。九代彦兵衛の時代には、1965年に皇居の宮殿・正殿(せいでん)松の間に置かれる玉座の塗加工を行っている。

現在の象彦は、蒔絵による高級漆器だけでなく、現代の生活様式に合わせたワインなどにも使えるカップ類といった日常使いの食器も数多く取り扱う。さらに、万年筆の軸に蒔絵を施すなど、海外メーカーやデザイナーとコラボレーションした、新たな試みも展開している。「京漆器の本当の魅力は、いわゆる“用の美”、そして長い歴史と伝統によって磨かれてきた繊細で優美な姿の中にあると思っています」と西村さんは語る。

京漆器に盛り付けされる京懐石

今でも、京都の多くの家庭では、正月や節句****などの際に、大切に受け継がれた漆器で特別な料理を盛り付ける風習が残っているという。「本来、蒔絵の柄にしても、祝いの席なら鶴亀や松竹梅といった吉兆の柄、茶席なら秋の紅葉といった四季折々の風物の柄など、それぞれに込められた意味と物語があります。象彦では新しいデザインの漆器を考案する時も、そうした日本の文化を必ず踏まえて考えています」と西村さん。 京漆器の美しさは、京都がはぐくんできた長い歴史と伝統文化の奥深さを映し出している。

* 参照
** 漆器における漆を塗る前の白木のままの素材
*** これをきっかけに屋号「象彦」となった。
**** 季節の変わり目となる日あるいは年中行事

京漆器に盛り付けされる京懐石(協力:たん熊北店)