April 2022
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ボタンの花であふれる島
島根県の東部、松江市の大根島(だいこんしま)は、世代を越えて人々に愛されるボタンの日本一の苗の産地だ。島では、ボタンの花が、毎年4月末から5月上旬に見頃を迎え、地域の重要な観光資源ともなっている。
色鮮やかな大輪の花を咲かせるボタンは、『百花の王』とも呼ばれ、古くから人々に愛され続けてきた。ボタンはボタン科の落葉小低木で8世紀に中国から薬用植物として渡来したと言われ、その後、観賞用に栽培されている。そのボタンの苗を日本で最も多く生産しているのが島根県松江市にある大根島である。大根島は、中海(なかうみ)という汽水湖(海水と淡水が混じり合っている湖沼)に浮かぶ周囲12キロメートルほどの小さな島で、4月下旬から5月初旬にボタンが開花する。中でも人々の人気を集めているのが由志園(ゆうしえん)のボタンだ。
近年、大根島では年間約70万本のボタンを出荷し、一部は海外に輸出している。このきっかけをつくったのは島内の農家の女性たちだ。日本が高度経済成長期を迎えた1955年から10年ほど、彼女らがボタンの行商で全国各地をめぐったおかげで大根島は日本一のボタンの産地に成長していった。由志園の営業企画主任の大谷俊樹さんによれば、そんな島の農家の女性たちの苦労があったことも、由志園が設立された理由の一つという。
「由志園の初代園主である門脇栄は、農家の子どもたちが、ボタンの行商に出た母親の不在で寂しい思いをしていることに心を痛めていました。そこで島の新産業として観光業を育て、女性たちが行商に出なくて済むようにと建設したのが由志園でした」と大谷さんは言う。
1975年4月に開園した由志園は、池を巡り歩きながら楽しむ池泉回遊式日本庭園で、4万平方メートルという広大な敷地面積をもつ。ここで4月上旬から5月上旬まで開催される「牡丹園遊会」の期間中、咲き誇る約 250品種、 25000本のボタンの花を楽しめる。特に入園者の人気を集めるのはゴールデンウィークに行われる園内中央にある池の水面に3万輪もの花を浮かべる「池泉牡丹(ちせんぼたん)」、そして地面にじゅうたんのようにボタンの花を敷きつめる「牡丹苑路(ぼたんえんろ)」だ。しかし、赤や白、紫など色とりどりの何万もの花は、園遊会の最終の2日間には、すべて黄色い花と白い花に入れ替えられる。「イエローガーデンフェスティバル」と呼ばれる。日本一のボタン産地だからこそ実現可能な演出だ。
バラのような強い香りではないが、島の春は、たくさんのボタンの花で、ほのかな甘い香りに包まれるという。ボタンの花のあらゆる魅力を堪能できる稀有な場所がここにある。