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March 2022

和菓子の魅力を伝える

  • 2021年3月10日(水)に「第18回文化庁文化交流使フォーラム(ライブ配信)」で披露された清水利仲さんが作った和菓子
  • 清水利仲さん(左)と水上正史駐スペイン日本国特命全権大使(当時)
  • スペイン・バルセロナ市での清水利仲さんのワークショップ
  • ドイツのフランクフルト市で現地の参加者に和菓子の作り方をレクチャーする清水さん
  • 清水さんとフランスのパリ市のワークショップ参加者
2021年3月10日(水)に「第18回文化庁文化交流使フォーラム(ライブ配信)」で披露された清水利仲さんが作った和菓子

和菓子職人の清水利仲(しみず としなか)さんは、文化交流使として、2019年夏、スペイン、フランス、ドイツで、和菓子づくりの体験会を開き、多くの人々と交流した。

清水利仲さん(左)と水上正史駐スペイン日本国特命全権大使(当時)

和菓子職人の清水利仲さんは愛知県安城市で約300年の歴史を誇る菓子店、両口屋(りょうぐちや)菓匠取締役顧問を務める。清水さんは、文化交流使として2019年6月15日から7月15日、ヨーロッパ3か国(スペイン・フランス・ドイツ)の5都市(マドリード・バルセロナ・パリ・ストラスブール・フランクフルト)を訪問、延べ12回にわたり体験会を開き、小豆(あずき)の炊き方や餡の作り方といった和菓子づくりを伝える活動を行った。

清水さんは「近年、和菓子は、先進諸国の健康食ブームを受けて海外の人にも、とても人気が高くなっています」と語る。

洋菓子が主に卵やバターなど動物性の材料を使用するのに対して、和菓子は米や豆類など植物性の食材が主原料で低カロリーなため、健康的な食事を心がける人たちからベジタリアンなどの、世界中の多くの人に受け入れられるようになってきているという。

今回の訪問に際し、清水さんは和菓子を総合的に知ってもらうために「知る・見る・触れる・味わう」ことをテーマに掲げた体験会を開催した。

「今回の訪問先、洋菓子の本場のヨーロッパの3か国でも、和菓子の魅力を率直に伝えることに努めました。和菓子には1000年を超える歴史があること、その種類は3000種にも及び、季節を感じさせるデザインにすることが伝統であること、味もそうですが、見た目「姿」も味わう、鑑賞する伝統があること、そして、多くの和菓子に使われる餡(あん)は、小豆などの豆類に砂糖を加えて甘く煮たものであることなどです。また、日本にある様々な種類の砂糖などについて説明しました。私が作った伝統的な和菓子を見てもらって、触って食べてもらいました。さらにはワークショップを開いて、参加者に餡を作ってもらったりしました」

訪れたマドリードはちょうど暑い時期で、夏の和菓子である水羊羹、わらびもち、葛まんじゅうを作ったところ、非常に喜ばれたと言う。3種の和菓子に共通するのはゼリーのような、清涼感のある透明な姿と、つるんとした食感だ。水羊羹には海藻から作られる寒天、わらびもちは山菜の一種のワラビの根から作られたわらび粉、葛まんじゅうは、植物のクズの根からとった葛粉を用いるため、それぞれ異なる、微妙な透明感と食感ができあがる。

「暑い時に食べたくなるものは世界共通。お菓子の姿が透明感を持っていることもあって、スペインでは『おいしい』と喜んでもらえました」と清水さんは言う。

スペイン・バルセロナ市での清水利仲さんのワークショップ

フランスでは、茶道とともに発展してきた和菓子の歴史にちなんで、抹茶と一緒に練りきりの和菓子を食べてもらおうと準備した。しかし、訪問時に気温40度という酷暑となったため、パリでは、熱い飲み物はさけて、冷たい水で抽出したお茶を準備した。数センチの小さな一つの和菓子に、洗練された色合いや形といった日本美が凝縮されていることに、参加者は感心したという。そして、甘い練りきりと、喉を潤しすっきりさせるお茶との組み合わせも好評だった。ドイツにおいても同様な感想が聞かれたという。

ドイツのフランクフルト市で現地の参加者に和菓子の作り方をレクチャーする清水さん
清水さんとフランスのパリ市のワークショップ参加者

また、清水さんはフランスのストラスブール市では、M.O.F(フランス国家最優秀職人章。Meilleur Ouvrier de Franceの略)を受賞しているパティシエや、洋酒メーカーの社長など業界トップも参加した。そこでは、日本に多くの砂糖の種類があることに話が及んだ。「欧州では、ほぼテンサイから作られる砂糖しかありません。しかし、日本にはサトウキビから作られる砂糖もあり、作り方によって風味や糖度が違うので、和三盆、黒砂糖、きび砂糖といった砂糖の種類を使い分けることによって、様々な甘みの和菓子が出来ます。日本の砂糖の種類の多さは世界一と言ってもよいかもしれません。洋酒メーカーの社長が『私たちはこれから糖の研究をしなければいけない』とおっしゃっていたのが、とても印象的でした」と清水さんは言う。

清水さんによれば、多様な和菓子が作られてきた背景には、砂糖の種類の多さのみならず、小豆や葛といった和菓子の材料に恵まれた日本の豊かな風土にあることを、今回のヨーロッパ訪問は、改めて実感する機会となったという。清水さんは、世界にも通じる和菓子の持つ魅力を再認識するとともに、洋菓子と異なる日本独自の食文化として、今後も世界に普及していきたいと意欲を燃やしている。