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  • 自宅のアトリエで制作するマテウシュ・ウルバノヴィチさん
  • カメラを片手に東京の通りを散策するウルバノヴィチさん
  • 『東京夜行』掲載のイラストレーション
  • シリーズ『自転車少年』からのイラストレーション

September 2021

日本の生活を描くポーランド人アーティスト

自宅のアトリエで制作するマテウシュ・ウルバノヴィチさん

ポーランド出身のマテウシュ・ウルバノヴィチさんは、数々のアニメ作品やイラスト集で知られるアーティストである。彼の描く、繊細でノスタルジックな日本の風景は、世界中の人々を魅了している。

カメラを片手に東京の通りを散策するウルバノヴィチさん

東京に昔から住む人々が郷愁を感じるような、古い商店などを描いた『東京店構え』、まるで異次元の入り口のようになる薄暗い路地裏を描いた『東京夜行』。これらの作品が好評を博しているのは、ポーランド出身のマテウシュ・ウルバノヴィチさんだ。ウルバノヴィチさんは、水彩を使い、描かれた場所で生活する人たちの息づかいまで感じられるように、細部まで描き込む。「例えば小さな店の2階に洗濯物が干してあるのが見えた時、そこでだれが生活しているのかを想像しようとする。私は1枚のイラストの中に物語を描きたいのです」とウルバノヴィチさんは語る。

ウルバノヴィチさんがポーランドで電子工学を学ぶ学生だったころ、日本のペンタブレットのメーカーのプレゼンテーションに参加する機会があった。ペンタブレットとは、タブレット上から専用のタッチペンとデジタイザーを使ってコンピューター上にまるで紙の上に描くように絵画表現ができるデジタルツール。試しにウルバノヴィチさんがそのタブレットでイラストを描いたところ、たくさんの人だかりができた。これがきっかけとなってウルバノヴィチさんはデジタルアートに興味を持つようになり、アニメーションや漫画を学ぶために神戸芸術工科大学に留学、大学院まで進んだ。

『東京夜行』掲載のイラストレーション

大学院を卒業した2013年には、アニメ制作会社である株式会社コミックス・ウェーブ・フィルムに就職した。彼はそこで、国内外でヒットした2016年公開のアニメーション映画、『君の名は。』の制作に関わった。ウルバノヴィチさんは新海誠(しんかい まこと)監督のもと、その背景作画に携わった。新海監督の作品は、息をのむほどに美しい背景美術に定評がある。

「新海誠さん自身が、自然と同様に東京の街中の景色も美しいと捉えていて、日常の中で皆が見落とすような美しさを表現してみせる。私もそのデジタル絵画の技術には影響を受けています」とウルバノヴィチさん。

ウルバノヴィチさんは、そんなありふれていながら、美しく、心に残るようなシーンを探して、休日にはカメラを片手に散策をすることが趣味となった。ある日、宮崎駿監督のアニメーション映画『耳をすませば』の舞台になった東京都多摩市の聖蹟桜ヶ丘を訪れてみて、印象的だった情景をもとに描いた『自転車少年』が、ウルバノヴィチさん個人のイラストシリーズの最初の作品となった。10枚の水彩画で構成されたこのシリーズは、台詞や言葉での説明はなくとも、少年の息遣いや体温、心情までもが伝わってきて、日本や海外の人々の心にも訴えかけ、ウルバノヴィチさんのイラストに人気が出る発端となった。

実は、現代日本のイラストレーターの作品は、ほとんどがデジタル制作になっているという。ウルバノヴィチさん自身は、2017年に独立してから、アニメスタジオに所属していた時のデジタルによる作画から距離を置き、紙に鉛筆やペン、水彩絵の具を用いて仕上げた手描きでの作品を発表し続けている。

シリーズ『自転車少年』からのイラストレーション

ウルバノヴィチさんは、「デジタルの作業では、何度でも簡単に修正したり、細かい部分は拡大して描き込むこともできる。紙の上では、そうしたことはできないので、デジタルのような明瞭さは少なくなるけれど、その分、見る人の想像力を膨らませられる気がします」と語る。

ウルバノヴィチさんは、今後は、オリジナルの漫画やアニメ制作に挑戦したいと言う。東京や、日本の各地を巡り、その土地の風景や人々に触発されながら、ウルバノヴィチさんがどんな物語を紡いでゆくのか、注目したい。