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INDEX

  • 短編映画の撮影の様子
  • 外国人観光客に三徳山三佛寺の国宝「投入堂」周辺を案内するアントニーさん(左)。
  • リエヴェン・アントニーさんと三朝温泉のマスコット「湯けむり怪獣ミササラドン」
  • ドローンで三朝温泉を写真撮影するアントニーさん
  • 三徳川沿いの三朝温泉の夜景

June 2021

温泉町に情熱を注ぐフランス人

リエヴェン・アントニーさんと三朝温泉のマスコット「湯けむり怪獣ミササラドン」

鳥取県の中央部にある三朝町(みささちょう)に魅了されて移り住んできた、フランス出身のリエヴェン・アントニーさんは、この地の魅力を世界の多くの人々に知ってもらうために活動している。

短編映画の撮影の様子

鳥取県の中央に位置する三朝町の三朝温泉は、三徳川(みとくがわ)沿いの山間にある小さな温泉街である。三朝温泉は、約850年前、修験道の聖地とされる三徳山参詣者が、白狼の命を助けたことをきっかけに発見されたと伝わり、文化庁の日本遺産に指定されている。(Highlighting Japan 2020年9月号「裏表紙」参照)。 「風景が好き、温泉が好き、町民の優しい人柄が好き、と三朝町の好きなところを一つ一つ上げても物足りない、それ以上の気持ちがある。それは誰かと恋に落ちやがて共に生きるようになった関係にも似て、私にとって三朝町は特別な思いがある町です」と語るのはフランス出身のリエヴェン・アントニーさん、三朝町に暮らして8年になる。

アントニーさんが日本に興味を持つようになったのは小学生の頃、父に勧められて、黒澤明監督の映画『七人の侍』を観て感銘を受けたことがきっかけだったと言う。大学に進学後も、映画を通じて日本文化を学ぶため、日本語を選択した。大学2年時には、1か月の日本旅行、翌年には関西大学へ1年留学の機会を得た。ますます日本が好きになったアントニーさんは、フランスで大学院(修士課程)を修了すると、日本の地方自治体が国際交流を図る人材を任用する「JETプログラム」に応募、採用が決まって、2011年に三朝町に着任した。

ドローンで三朝温泉を写真撮影するアントニーさん

「最初の印象は、思ったより田舎だな、と。でも、とても自然が豊かで、山林がほとんどを占める町で、どこでも木々の緑に癒される。この町なら長く住みたいと思いました」とアントニーさんは話す。「役場で同僚の皆さんと最初に会った時、俳優のトム・クルーズに似ていると言われたので、『よくそう言われます』と答えたら、とてもウケましたね」と笑う。

三朝温泉は、世界屈指のラドン含有量を誇る「ラドン泉」だ。ラドン泉は、細胞を活性化し、免疫力を高め、痛みを緩和する効果があると言われている。ラドンはラジウムが気体となったものである。ラジウムの発見者はフランス人物理学者、マリ・キュリーとその夫ピエールであることから、三朝町では、温泉の効能への感謝とキュリーの功績への感謝を重ねて、1951年から毎年「キュリー祭」が開催され、キュリー夫人のブロンズ像を設置して顕彰している。以来、三朝町はフランスとの交流を深め、1990年には、南フランスの温泉地として有名なラマルー・レ・バンと友好姉妹都市になった。三朝町役場の国際交流員も代々フランス人が務めており、アントニーさんは10人目であった。

外国人観光客に三徳山三佛寺の国宝「投入堂」周辺を案内するアントニーさん(左)。

アントニーさんはその5年間の任期中、フランス語の語学講座の開催や、姉妹都市との交流の準備など、国際交流員としての活動をした。さらに、三朝町の子供たちを主人公にした「三朝少年物語」、そして、三朝温泉のマスコットキャラクターである「湯けむり怪獣ミササラドン」を主人公とした「らどんな一日」の2本の短編映画を撮った。三朝温泉が開湯して850年を記念して作られたこれらの作品は、新聞やテレビなど数多くのメディアに取り上げられた。「2013年の『三朝少年物語』の上映会では、町の文化会館が満席になり感動しました。出演してくれた小学生たちは、もう高校生になっていますが、今も交流があります」とアントニーさん。

任期を終え、一旦は三朝町を離れたが「どうしても三朝にもどりたい」という思いから、地方自治体の委託を受けて活動する「地域おこし協力隊」に志願し、2019年に三朝温泉観光協会に赴任した。現在のアントニーさんの仕事は、国内外への情報発信、インバウンド対策など。コロナ禍の現状では、2018年には年間約2万人だったインバウンド客はほとんどなくなったが、アントニーさんは「コロナ禍を契機に、人々の意識が変化して、今後の観光は三朝温泉のような、落ち着いた静かな環境を求めるようになるのではないか」と考え、コロナ禍後の準備に勤しんでいる。

三徳川沿いの三朝温泉の夜景

三朝温泉には一年を通じて山間の落ち着いた静けさがある。夏になれば、カジカガエルが澄んだ美しい声で鳴き、ゲンジボタルが飛び交う。日本に長期旅行をする際は、その行程に三朝温泉を組み入れて、旅の疲れをとってリフレッシュすることがアントニーさんのおすすめだ。「ぜひ三朝を訪れて、私が三朝に強い思いを抱くようになったのと同じ体験をしてほしい」とアントニーさんは語る。