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  • 手前に徽軫(ことじ)灯籠、後方に雪吊りを臨む霞ヶ池の冬景色(夜)
  • 手前に徽軫(ことじ)灯籠、後方に雪吊りを臨む霞ヶ池の冬景色(日中)

May 2021

加賀藩の名園「兼六園」

手前に徽軫(ことじ)灯籠、後方に雪吊りを臨む霞ヶ池の冬景色(夜)

日本海に面する石川県金沢市は、16世紀後半から、加賀藩の城下町として栄えた。その金沢市の中心部に位置する日本庭園「兼六園」は、代表的な大名庭園である。約350年前に造営された庭園は、日本三名園の一つであり、特に雪景色で知られている。

手前に徽軫(ことじ)灯籠、後方に雪吊りを臨む霞ヶ池の冬景色(日中)

兼六園は、1676年に加賀前田家の5代当主 前田綱紀(まえだ・つなのり)が、金沢城に面した別荘地に庭を築いたのが始まりと伝えられる。その後、歴代の藩主の私庭として、時の藩主の好みに応じて整備、拡張が行われ、1863年頃にほぼ現在のような形となった。1985年には国の特別名勝に指定されている。

兼六園は、約11万4千平方メートルという広大な敷地に点在するいくつもの池や築山、御亭(おちん。休憩や食事をする建物)などを、散策して鑑賞する「回遊式」庭園である。大きな池に浮かぶ島は、仙人が住む島を見立てたもので、一族の繁栄を願った大名家の思いが偲ばれる。

兼六園の魅力は四季を通じて楽しめることである。早春に香りの良い梅が咲いた後に直ぐ、400本を超える桜が咲き誇る。初夏にカキツバタが咲き、木々と苔の生き生きとした緑が、やがて秋の紅葉へと変わっていく。

特に、日本でも降雪の多い地方にある金沢ならではの冬の景色は格別である。冬の準備として、庭師が樹木の枝を大雪から守る「雪吊り」の作業は、兼六園で続く慣習だ。例えば、19世紀前半に植えられたとされ、樹高10メートルに及ぶ「唐崎松」の雪吊りは、5本の芯柱に、枝を吊るための約800本の縄が円錐状にかけられる。雪が降ると、縄の上に雪が積もって、モダンアートの彫刻のような印象を与える。冬には、夜に木々がライトアップされ、まるで巨大なクリスマスツリーをいくつも並べたような幻想的な光景が浮かび上がる。その様子は、兼六園の最も有名なシンボルの一つである二本足の徽軫灯籠(ことじとうろう)の付近から眺めると絶景である。

この雪吊りは、3月の半ばには取り外され、身を切るように寒い冬が過ぎた金沢に、春の到来を告げる。