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  • 長命寺桜もちの店舗と東京スカイツリー

April 2021

日本の春のお菓子「桜餅」

店の近くの隅田川のほとりにある桜の木

春の訪れを告げる甘味として、日本人に馴染みの「桜餅」。東京を代表する和菓子店の一つは、東京が「江戸」と呼ばれていた時代から300年以上にわたって、桜餅を作っている。

長命寺桜もち

春、桜が咲く季節になると、多くの日本人が食べたくなるのが「桜餅」だ。桜餅と呼ばれる和菓子には東京起源の関東風と大阪起源の関西風の二種類があり、どちらも「餅」が塩漬けした桜の葉で巻かれているが、平たい形状が関東風で、より丸みを帯びた形状が関西風である。いずれも、桜色あるいは白色をしている。ほおばると、餡の甘さとほのかな塩味、そして、桜の葉の甘い香りが口の中に広がり、春の到来を実感させてくれる。

東京都の東部、墨田区の隅田川のほとりにある「長命寺桜もち」は関東の桜餅発祥の老舗であり、300年以上にわたって桜餅だけをつくり続けてきた。

「素材にこだわり、手作業で、創業以来の変わらない味を守り続けています」と、女将(おかみ)の山本祐子さんは言う。

長命寺桜もち

その始まりは1717年、創業者の山本新六が、当時から桜の名所だった隅田川の堤の桜の葉を集めて塩漬けしたことに始まる。塩漬けにより葉が発酵して、クマリン*という芳香物質が出来上がる。バニラと似た香りである。この香りを生かしたのが、まろやかな味わいの長命寺桜餅であり、その名は店が長命寺の隣にあったことに由来している。

この桜餅の特徴は、大きめの桜の葉を2、3枚使って餅全体を包んでいることにある。現在使われている葉は、より多くのクマリンをつくるといわれる、静岡県・伊豆半島西部の大島桜という品種の桜の葉だ。興味深いことに、日本人でも、この葉を餅と一緒に食べるのか食べないのか、迷う人は多い。実際、葉を食べる人もいれば食べない人もいる。

「葉はよけて、中の餅だけをご賞味いただくことをお勧めします」と山本さんは言う。

長命寺桜もちの店舗と東京スカイツリー

塩漬けされた桜の葉が、餅にほのかな香りを十分に移しているからだという。また、葉は餅の乾燥を防ぎ、しっとりと柔かな口当たりを保つための工夫でもある。

桜の葉は、桜餅を美しく装い、春に咲く桜の花の芳しい香りを楽しませてくれる。桜餅をほおばる前には、季節感ある姿を愛(め)で、香りを味わうことも、この昔ながらのお菓子の楽しみである。

* クマリンは、シナモンなど多くの植物に含まれ、過剰摂取はやや有害とされているが、東京都健康安全研究センターは、標準的な日本の食事をする限りでは問題ないとしている。