Skip to Content

INDEX

  • 勝木俊雄・国立研究開発法人森林総合研究所多摩森林科学園チーム長。後ろで咲くのは、クマノザクラ。
  • クマノザクラ
  • 吉野山の桜
  • 接木

April 2021

桜への愛を分かち合う

勝木俊雄・国立研究開発法人森林総合研究所多摩森林科学園チーム長。後ろで咲くのは、クマノザクラ。

桜は日本人にとって最も親しみのある花の一つである。勝木俊雄(かつき としお)・国立研究開発法人森林総合研究所多摩森林科学園チーム長に、日本の桜の歴史や特徴について話を伺った。

クマノザクラ

日本で、野生種の桜は何種ぐらいあるのでしょうか。

野生種の桜はアジア、北米、ヨーロッパなど、北半球に約100種が分布していますが、日本で自生しているのはヤマザクラなど約10種です。この他に日本では、野生種をもとに人が作り出した100種類以上の栽培品種があります。その代表的な桜が、エドヒガンとオオシマザクラの雑種と考えられている‘染井吉野’(そめいよしの)です。栽培品種としての歴史はそれほど古くはなく、商品化は19世紀中頃に、江戸の染井村(現在の東京都豊島区)の人が、ヤマザクラの名所である吉野山(現在の奈良県)にちなんで「吉野桜」と名付けて売り出したのが、始まりと言われています。

吉野山の桜

今日、日本で‘染井吉野’が最も馴染みのある桜となった理由を教えてください。

花が大きく、美しく咲くので、観賞用に適していたからです。また、成長も早く、植えてから5年ほどで、花を楽しめる大きさになります。明治時代(1868年~1912年)に、各地の公園、学校など公共の場所に植えられるようになり、全国へと広がりました。‘染井吉野’は、「接木」(つぎき)で増やします。接木は、増やしたい親木の枝を、土台となる、根本近くで幹を切った木の切り口につなぎ合わせて成長させる方法です。この方法で、親木と同じ大きさ、形、色の花を咲かせる桜の木を安定して増やすことができるのです。

接木

勝木様が、2018年に、日本の野生種の桜では約100年ぶりとなる新種として発表した、「クマノザクラ」について教えてください。

クマノザクラは三重県、奈良県、和歌山県にまたがる山間部に自生しています。ヤマザクラと似て、その変異と思われていたので、これまで独立した種として認識されていませんでした。私は、自然の森の中で咲くクマノザクラに、様々な庭園や公園で華やかに咲く桜とはまた違った、素朴な美しさを感じます。花が淡いピンク色で、比較的若く小ぶりなうちから美しい花を咲かせるので、今後、鑑賞用としても期待できます。その一方で、野生のクマノザクラの保全は様々な問題に直面しています。例えば、森林の更新が十分に行われていないため、若木に必要な日光が差し込む森が減少していることや、シカなど野生動物による食害、外来種の桜と交雑などです。こうしたことから、今年(2021年)2月に私は民間組織を立ち上げ、クマノザクラの研究、保全、育成と植林、観光への活用方法の検討といった活動を始めています。地元住民と協力して、クマノザクラの美しさを後世につないでいきます。

最近は新型コロナウイルス感染症の影響で減っているとはいえ、日本の桜を見るために、海外からも多くの方々が訪れるようになりましたが、海外の皆さんには、日本の桜のどのような点に注目して頂きたいとお考えでしょうか。

桜の花を楽しむことに加え、日本の花見の歴史や文化にも注目して頂きたいです。例えば、ヤマザクラを中心に約3万本の桜が植栽されている吉野山は、世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」に含まれる場所の一つです。7世紀後半に吉野山中に創建されたと伝えられる金峯山寺(きんぷせんじ)の信者が桜を植樹したのが始まりと言われます。1000年以上にわたって、多くの桜を、人々の努力で受け継いできたことは特筆に値します。

この他にも、日本各地には、桜の巨樹、古木が数多くあります。国や自治体から天然記念物に指定されている桜も多いです。そうした、地域の特色ある桜、そして桜にまつわる歴史や文化、保存活動などにも興味を持っていただきたいと思います。