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  • 黒い漆塗の弁当箱。木乃婦では料理、季節、行事に合わせて様々な器が使われる。
  • ガラス器
  • 木乃婦では料理、季節、行事に合わせて様々な器が使われる。(上から)磁器、漆器、陶器
  • 「京料理木乃婦」の三代目主人 高橋拓児さん

January 2021

京料理と器の世界

黒い漆塗の弁当箱。木乃婦では料理、季節、行事に合わせて様々な器が使われる。

伝統と格式を誇る京料理の料理人は、客や献立に合わせて器を選び、また、客の方も器と料理を一つの作品のように鑑賞して、食事を楽しむ。

ガラス器

日本料理の中でも、長く都として文化の中心地であった京都で培われた京料理 の世界では、客をもてなす心をとても大切にしてきた。その重要な役割を果たすのが器である。旬の食材の持つ色彩や繊細な質感を最大限生かすように料理を盛り付け、季節感を演出し、客の気持ちに寄り添う。京料理の料理人はそうした思いを込めて、器を選んでいる。

京都の老舗日本料理店「木乃婦」の三代目主人で、NHKの料理番組「きょうの料理」などでも活躍する高橋拓児さんは、次のように語る。

「まずは、お客さんに合わせて献立を考えます。そして、器を選んでいきますが、コース料理のように一品ずつお出しする会席料理 では、一品ごとに異なる種類の器に盛り付けますから、献立同様に選ぶのに気をつかいます。和食器と言っても、磁器 、備前焼や志野焼などの陶器、そして漆器と、多種多様ですから、お料理に合わせ、季節を踏まえ、更にお客さんの来店目的や好みに合わせて、器も選んでいきます」

木乃婦では料理、季節、行事に合わせて様々な器が使われる。(上から)磁器、漆器、陶器

器には、それぞれ作られた時代や地域の背景、作家の思いがある。料理人はそうした器の持つ物語を理解し、その日その日の客を思い、食材や器を選び、盛り付けを考え、料理を仕上げていく。そして、客の方は、まず盛り付けそのものを愛(め)で、料理を堪能し、その余韻の中で改めて器を楽しむのである。

高橋さんは「ナイフとフォークを使う西洋料理や象牙の箸を使う中華料理では、器に傷が付かないよう丈夫な磁器の皿などが主流になっていきました。一方、柔らかな木を原料とする箸を使う日本料理では、様々な器を用いることが可能なため、固い陶磁器以外にも、素焼きの器や、傷つき易い漆器なども盛んに用いられてきたため、世界でも稀にみる多種多様な種類の器が発達したのです」と解説する。

「京料理木乃婦」の三代目主人 高橋拓児さん

シェフが強い個性を発揮するフランス料理などの西洋料理と違い、京料理では、料理人はあくまで食事の席を演出する黒子であり、器の選択も、おしつけがましいものではなく、「さりげなさ」が大切とも言う。

一方、「多種多様な器を用いることは、日本料理の長い歴史や奥深さをさりげなくアピールすることにもつながる」と高橋さんは言う。

高橋さんに、木乃婦が所有する食器の数を尋ねた。店内の3つの蔵に、合わせて数万という数を所蔵しているという。今でも、その数は増えており、海外の客をもてなすためにマイセンなどの洋食器も加えたという。そして、器は全すべてリスト化されており、その中から、一席、一席、料理や客に合わせた器を選んでいるとも教えてくれた。

器の数もさりながら、一人一人の客を大切にする京都の料理人のおもてなしの心の奥深さも感じられよう。古都・京都を訪れる機会があれば、京料理を器とともに堪能されることをお勧めしたい。

* 京都の歴史上形成された日本料理の五体系(大饗料理、精進料理、本膳料理、懐石料理、お番菜)を総合した、「だし」を基本とする伝統技術に裏付けられた調理法によって創作される料理 (関西広域連合のサイトより引用)
https://www.kouiki-kansai.jp/koikirengo/jisijimu/nosui/kansainosyoku/870.html