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  • 青柳正規さん

December 2020

地域を活性化する文化観光

青柳正規さん


日本は今、多くの地域において、美術館や博物館を拠点とした文化観光を推進している。2013年から2016年まで文化庁長官、現在は多摩美術大学理事長、山梨県立美術館と石川県立美術館の館長、奈良県立橿原考古学研究所の所長を務める青柳正規さんに日本の文化観光について話を伺った。

日本の様々な地域では今、美術館や博物館あるいは寺社仏閣などの文化施設を核とする文化観光が推進されています。その意義や取組について教えください。

日本には、全国各地に独自の地域文化が数多く存在します。それは、伝統工芸品や建築物などの有形文化財から、民俗芸能、祭礼といった無形文化財等、実に多種多様です。世界的に見ても、これほど豊かな地域文化を持つ国はほとんどありません。それらの文化財を、観光資源として国内外に発信して、地域の活性化に結び付けていくことが、今日の文化観光の推進の目的です。

その際、大切なことは「ストーリー」です。単に価値の高い文化財があるということだけではなくて、その文化財が存在する地域の歴史や魅力をストーリーとして明確に発信するのです。それによって、文化財自体が生き生きとした魅力を発し、多くの人々が文化財に関心を寄せるようになります。こうした考えを制度化したのが、文化庁が主体になって行っている日本遺産*の認定であり、また、今年(2020年)5月に施行された文化観光推進法の制定と言えるでしょう。文化観光推進法は、様々な文化資源の観覧を通じて文化に関する理解を深める文化観光を積極的に推進することで地域を活性化させ、経済効果をも生み出すことを目的にしています。

文化財の背後にあるストーリーこそが文化観光のキーポイントですね。

そのとおりです。以前、世界的なワインコンクールで、フランスのワインが他国のワインに負けたことがありました。私の友人で、フランスの古いシャトーでワイン造りをしている会社の副社長の日本人がいましたが、彼の反応が意外でした。しょげているかと思ったら「我々はまったく平気だ。」と言うわけです。「今の時代、良質のぶどうは作ろうと思えば世界中どこでもできる。でも、我々には、新興の造り手にはない、シャトーの持つ独自のストーリーがあるから。」と言っていました。確かに、彼のシャトーは、歴史上の有名な貴族が所有していたこともあり、様々な物語があったと思います。人々は、ワインを生み出すシャトーのストーリーにも思いをはせてワインを飲んでいるとも言えます。

これと同様に、日本の各地域にも、おもしろいストーリーとともに、世界に紹介できる素晴らしい文化財が山のようにあります。ところが、日本人はこれまでそれをあまり語ってこなかったのです。

文化観光の中で特に博物館、美術館はどんな役割を果たしていくのでしょうか。

地域の文化が体系的に整理されている所が、博物館や美術館です。その地域を訪れる人にとっては、地域文化を知るためのイントロダクション、あるいは、百科事典のような役割を果たしていくでしょう。また、地域の様々な文化財を集める中核施設として、そして自ら文化を発信する場として、その機能を果たせると思います。

例えば、地元作家の作品を展示する北海道のある美術館では、地元の食材を使ったランチ、そして北海道の美しい風景を楽しめるツアーを定番化しています。その場所ならではのストーリーを味わえると、団体旅行の人気観光ルートになっています。

私が館長を務める山梨県立美術館はミレーの絵画で有名ですが、ミレーだけではなく、地元の作家の作品や山梨を描いた作品も展示しています。世界的な作家だけではなく、若手や地元の作家の作品を並べることも重要です。一流の作家から、若い作家の作品まで様々なものを取り混ぜると、そこに化学反応が起き、創造的なものが、新たに生まれてくると思います。

有形・無形の文化をデジタルアーカイブ に蓄積しておくことも、これからの美術館や博物館の大きな役割の一つと言えるでしょう。2011年の東日本大震災では地域の文化財が深刻な被害を受けました。自然災害が起こって、様々な記録や文化財が失われたとしても、デジタルアーカイブ化しておけば、確実に記録、伝承していくことができます。美術館や博物館が当該地域の写真や絵画を保存することで、行政や住民が地域の過去の変化、今後の変化を知るための助けにもなります。文化観光の拠点としての役割と合わせて、今後、こうした役割もますます重要となってくるでしょう。

* 地域の歴史的魅力や特色を通じて我が国の文化・伝統を語るストーリーを「日本遺産(Japan Heritage)」として文化庁が認定する制度。
“Japan Heritage Portal Site” https://japan-heritage.bunka.go.jp/en/index.html