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  • 千葉県鴨川市の大山千枚田
  • ともに農作業を行う棚田オーナーと地元農家
  • 大山千枚田のイルミネーション

November 2020

棚田の景観と米作りを守る

千葉県鴨川市の大山千枚田

日本では古くから、山間の傾斜地を開墾した棚田で盛んに稲作が行われてきたが、近年その面積は減少している。千葉県鴨川市にある棚田では、地域住民と都会に住む人々が協力し、その美しい風景と米作りを守り続けている。

ともに農作業を行う棚田オーナーと地元農家

日本の稲作は、17世紀に灌漑(かんがい)技術が発達して平野部に新田開発が行われるまで、水の確保が容易な傾斜地を利用した棚田で盛んに行われていた。人びとは山の斜面を開墾し、山間部の河川上流からの水を田に引き込むとともに、溜池の造成や井戸を掘って貯水し、さらに湧き水を引いて棚田に必要な水を確保し、整備してきた。しかし、千葉県鴨川市の棚田「大山千枚田(おおやませんまいだ)*」では、保水力が非常に高い強粘土質の土壌を活かし、全国でも珍しく、雨水だけで米が作られてきた。強粘土質の土壌で作られた米は甘さや粘り気が強く食味が優れ、江戸時代には江戸(現在の東京)近郊で採れる最高級米の一つに数えられていたと伝えられる。

伝統や文化、美しい景観、教育、国土保全といった多面的機能を有す棚田は農民がつくった日本のピラミッドと言われている。東京から一番近い棚田である大山千枚田は、標高約90~150メートルのすり鉢状の急峻な地形に、大小様々な形状の375枚の水田が広がっている。都心から車で2時間弱、日本古来の美しい棚田の風景が残ることで、最近は観光地としても人気が高い。

農業の機械化、大規模化で、棚田の生産性が相対的に低くなり、全国でその耕作放棄地が増える中、大山千枚田では、土地の所有者、鴨川市民、市外在住者らによって1997年に発足した「大山千枚田保存会」が中心となり、棚田の保存、米作りが行われている。

「急傾斜地に作られた棚田には大きな機械が入らず、作業効率が非常に悪く、人力に頼らざるを得ないため、今では、米作りだけで生計を立てるのは至難でした。そこで我々は“棚田オーナー制度”を導入し、都市住民と地域の積極的な交流を通じて、農地の維持管理をすることにしました」と、保存会の理事長を務める石田三示(いしだみつじ)さんは語る。

「棚田オーナー制度」というのは、棚田の1区画(100平方メートル)を1年間3万円で借り受けて「オーナー」となった人々が、自ら田植えや草刈りなど年間7回程度の農作業を行い、自分の米として収穫する制度である。保存会は、農作業のほかにも自然観察会や餅つき体験など様々な体験メニューを用意しており、都市生活者であるオーナーたちにとって、伝統的な農村文化を学べると人気を呼んでいるという。

大山千枚田のイルミネーション

2016年には、棚田の近くに築100年になる農家だった古民家を改修してレストラン「ごんべい」をオープンし、棚田で収穫したお米を使ったおにぎりや米麺、郷土料理などを提供し、地域の米食文化の魅力を伝えている。

「大山千枚田保存会の結成当初、地元ではほとんどの人たちが“都会の人が、わざわざお金を払って農作業をするはずがない”と思っていました。しかし、棚田オーナーの募集を開始すると、予想以上の人気で、すぐに定員が埋まりました。これからは都会の人たちと一緒に、棚田の保全以外にも、様々な地域活性化活動に取り組んでいくことが必要だと思っています」

大山千枚田から始まった棚田オーナー制度が、現在では、鴨川市内5つの地域に広がっている。農業の担い手を多様化させながら、美しい農村風景を次代につなぐという、日本の米作りの未来を考えるヒントが保存会の取組にある。

* 千枚田は「千枚の田」の意味。「千」は「1,000」を意味するが、「量が多いこと」の意味もある。日本各地には「千枚田」があるが、必ずしも全てが千枚の田があるということではない。