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  • 『鬼滅の刃』スペシャルイベント『鬼滅の宴』の衣装を着けたキャスト
  • キサブローさんがスタイリングした着物を着用する人
  • 着物デザイナーのキサブローさん
  • キサブローさんがデザイン・スタイリングした着物を着用する人
  • キサブローさんによる魔除けプロジェクト

July 2020

ボーダーを超えた着物

『鬼滅の刃』スペシャルイベント『鬼滅の宴』の衣装を着けたキャスト

東京は世界のファッション界が注目し続ける街である。街を行く若者たちのファッションには奇抜さもあれば思いがけない組み合わせの面白さもある。そうした東京のファッション界で今、ある新進気鋭の着物デザイナーが注目を集めている。

着物デザイナーのキサブローさん

日本の伝統的な衣服である“着物”は、優美で格式高いと世界的に評価されている。東京で創業98年の歴史がある着物の仕立屋、岩本和裁の4代目を継ぐ着物デザイナーのキサブローさんは、着物の美しさを大胆に再解釈した表現が注目を集めている。

今、日本の若者たちの間では大正時代(1912~1926年)を舞台に、主人公が、家族を殺した「鬼」と呼ばれる敵と戦う姿を描く漫画・アニメ作品「鬼滅の刃」が人気となっている。キサブローさんは「鬼滅の刃」のイベントの衣装制作を担当し、着物の魅力を伝えることで、原作ファン以外にも大いに注目される事となった。「作中の着物を可能な限り、忠実に再現することを目指しました。やわらかいシルエットを手で縫い上げることで、美しい着物に仕立てられたのではないかと思います」とキサブローさんは語る。

2015年に立ち上げたブランドのテーマは、“ボーダーを超える”。「和と洋」「男性と女性」など様々なボーダーを超え、自由に着物を楽しむことを提案している。その着物の楽しみ方は、従来のイメージを覆すスタイリッシュなものである。

「着物をきちんと着るのは、かっこいい。でも、たとえば普段の洋服の上に着物を羽織って東京の高層ビル街を歩くなど、ラフに着てもかっこいいと思っています」

キサブローさんがデザイン・スタイリングした着物を着用する人

キサブローさんは、明治時代の革新的な和裁士だった曽祖父の名を受け継いだ。女性として生まれたが、小さい頃から、花柄など女の子用の着物を着させられることが、なぜか嫌だったと幼少期を振り返る。それゆえか、家業の着物への愛着があまりわかなかったという。

転機となったのは、多摩美術大学の卒業式で祖父の着物を借りて着た時のことだった。それまで一度も家業を継ぐことを求めなかった父が、初めて着物の話を詳しく教えてくれ、その魅力に気付かされた。

「着物は直線裁ちで残布を出さずに仕立て、縫い糸をほどけば仕立て直せるサスティナブルな衣服です。私と祖父は、生きる時代も体形も随分違いますが、そんな違いを超えて同じ着物を着られるのです。その合理的な美しさを知り、着物が好きになりました」

最近の新たな試みとして、今年7月には非接触型のオンライン上のコミュニケーション・プロジェクト「るすにする」を開催している。これは、リアルな自分の服とともに、例えば感染症といった「恐れていること」を書いて送ると、キサブローさんの手によってその服に「魔除け」の紋様がデザインされて戻ってくるというものである。さらに8月7日のオンライン特別イベント「ここにゐ(い)る」の開催によって、その魔除けが施された服をオンライン上で鑑賞できた。

キサブローさんによる魔除けプロジェクト

「昔、流行り病が流行した時などに人々が”魔除け”を心のよりどころとしたことから、このコミュニケーションを考えつきました。例えば、着物の背中の縫い目は、魔物を追い払う“目”の意味があり、その上に付ける背紋はそれを表したものであるなど、着物や帯の仕立て、柄や紋様を付けることには、もとから魔除けの意味が込められています」

現在では着物に込められた魔除けの意味を知らない日本人も多い。そうした知られざる知識を、ファッションの中心地である東京から発信することで、着物に興味を持つ人が増えてくれれば、とキサブローさんは考えている。

着物は日本独自のデザインの宝庫である。1月の成人式は着物姿の新成人で溢れ、着物姿で街を歩く若者を見ることも増えている。東京の街でスタイリッシュな着物姿に出会ったら、刺しゅうや柄に注目し、その紋様にどんな魔除けの意味があるか考えてみていただきたい。