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April 2020

多様な生物との共存


2010年に愛知県名古屋市で開催された、生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)において、「自然と共生する世界」を目指した生物多様性に関する世界目標が決定された。環境省自然環境局長の鳥居敏男さんに、日本の生物多様性やその保全のための取組について伺った。

日本の自然、生物多様性につきまして、その全体的な特徴を教えてください。

日本列島は、亜寒帯に属する北海道から、亜熱帯に属する南西諸島や小笠原諸島まで、非常に南北に長く伸び、地形も複雑で標高差も大きいです。また、雨や雪も多く降ります。こうした気候や地理的な条件から、日本は生物多様性に富んだ自然環境を有しています。日本の生物種数は、既に知られているもので9万種以上、まだ知られていないものも含めると30万種以上になると推定されています。日本列島はユーラシア大陸から海を挟んで隔てられているため、日本のみで生息する固有種が多いことも特徴です。例えば、両生類の約8割、陸生哺乳類の約4割は固有種です。これは世界的に見ても非常に高い割合です。雪景色の中で温泉につかる姿で有名なニホンザルも固有種で、先進国の中で野生のサルが生息するのは日本だけです。

そうした豊かな自然の中で、日本人は、どのように暮らしてきたのでしょうか。

日本では古くから稲作が行われていますが、平地が少ない国土のため、森林に近い場所にも人が住み、農耕が営まれてきました。人々は、近くの森林から家庭用の燃料、資材や食べ物など生活に必要な材料を手に入れました。こうした人が自然と密接に関わりながら生活している地域を「里山」と呼んでいます。里山には、自然の中に人の手が入ることで存続できる生物もいます。例えば、絶滅の恐れのあるカタクリという植物は、人に間伐され、春先に日光が差し込むような森林で生育します。また、農業用水を貯める池には、トンボなどの昆虫、カエルなどの両生類、魚類などたくさんの生物が育まれます。熊本県の阿蘇などの牧草地では、早春に地元の人々が草原に火を放つ野焼きが行われます。野焼きは、牧草地が樹林化することを避けるために行われますが、草原を住処とする固有の蝶や草花などの生物が生存できる環境も作っているのです。

そうした貴重な環境も、様々な変化によって危機に直面していると言われます。日本が直面する危機の特徴を教えてください。

2012年に国が策定した「生物多様性国家戦略 2012-2020」では、日本の生物多様性は4つの危機に直面しているとしています。第一に、「開発など人間活動による危機」です。埋め立てなどの開発、鑑賞や商業利用のための乱獲が原因で、生物の減少や絶滅、生息環境の悪化が進んでいます。第二に、「自然に対する働きかけの縮小による危機」です。人口減少や少子高齢化による人手不足で、里山の手入れが十分でなくなり、生態系のバランスが崩れています。第三に、「人間により持ち込まれたものによる危機」です。外来種が繁殖し、在来種を捕食したり、交雑することで生態系に撹乱(かくらん)をもたらしています。そして第四に、「地球環境の変化による危機」です。地球温暖化などの原因により環境が変化することで、サンゴや高山植物などの脆弱な動植物の絶滅の恐れが高まっています。

日本の特徴的な生物多様性を失わないように、どのような取組を行なっているでしょうか。

生物多様性の保全を目的に、10年前のCOP10で決まった2020年までの個別目標である「愛知目標」を達成するために、日本は前述の「生物多様性国家戦略」を策定し、様々な取組を進めています。例えば、自然公園法や種の保存法など既存の法律を踏まえた生物多様性や絶滅危惧種の保全対策の推進です。2019年には自然環境保全法を改正して、貴重な生態系や生物資源が存在する深海域の海底に保護区を設定できるようにしました。

また海外では、日本がCOP10で提唱した「SATOYAMAイニシアティブ」を推進しています。このイニシアティブの下、国連やNGOなどの組織と協力して、開発途上国で、自然の恵みを持続可能な形で利用してきた地域において、自然環境を守りながら、住民の新たな収入源となるエコツーリズムや地場産品を使った高付加価値の商品生産などの取組を支援しています。

どこにどのような生物多様性があるかを知ることがその保全のために重要だと思いますが、日本では例えば、どのような場所が考えられるでしょうか。

日本には34の国立公園がありますが、どの公園にも多様な生物がいます。例えば、北海道の知床国立公園では、オオワシ、ヒグマ、シャチなど、他の地域では珍しい大型の鳥類や哺乳類が生息しています。また、国立公園の中で、人と自然が共存する姿を見ることもできます。三重県の伊勢志摩国立公園内には、うっそうとした森の中に日本を代表する神社である伊勢神宮があります。また、西日本の1府10県にまたがる瀬戸内海国立公園では、海に浮かぶ緑豊かな島々と、海沿いの斜面を利用した段々畑が特徴的な景観を生み出しています。このように、人と自然が織りなす景観も日本の国立公園で楽しんでいただきたいです。