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March 2020

和紙:伝統と新たな可能性


日本の伝統的な紙「和紙」の代表的な産地の一つ、福井県越前市で作られる「越前和紙」は、1,500年もの長い歴史を誇る。1871年に越前和紙の問屋として創業した杉原商店で社長を務める杉原吉直さんに、和紙の歴史、特長、今後の可能性について伺った。

和紙の歴史はどのように始まったのでしょうか。

7世紀頃に、中国から麻を原料とした紙が日本に伝わったと言われています。麻の紙は、麻を切ったり、すり潰したりして、繊維をほぐして作ります。しかし、繊維が非常に長く、丈夫なため、紙が完成するまでに時間も労力もかかることから、楮(こうぞ)や雁皮(がんぴ)といった日本原産の植物が使われるようになりました。これらの植物は、草木を焼いた灰と一緒に煮ると、繊維が簡単にほぐれるのです。奈良時代(710〜794)になると日本では、仏教の経文や税の記録などの目的で多くの紙が必要となったため、国は紙作りの技術を全国に広めました。やがて、紙は越前、美濃(岐阜県)、石州(島根県)など各地で作られ、優れた紙は税として納められるようになりました。平安時代(794〜1185)には、高品質の紙を作ることができる「流しすき」という技法も確立されました。それ以来現在に至るまで、和紙は公文書、芸術作品、生活用品など幅広く社会で使われています。

和紙の特長をお教えください。

和紙は、5ミリから10ミリの長さの植物繊維が複雑に絡み合ってできているので、非常に丈夫です。また、化学薬品がほとんど使われていないので、化学的な変化も起こりにくく、長持ちします。奈良時代、平安時代の宝物が収められている奈良県の正倉院には、702年に作られた日本最古の紙が残されています。

また、窓や扉、間仕切りなどの建具として使われる「障子」にも、和紙ならではの特長が活かされています。和紙を貼った障子に日光が透過すると、部屋全体が柔らかな光で包まれますが、これは複雑に絡み合った和紙の繊維が光を拡散するためです。さらに、和紙の繊維と繊維の間に含まれる空気が湿気を吸収したり、熱を保ったりするので、障子には断熱・調湿の効果もあります。

近年、どのような分野で和紙の需要が増えているでしょうか。

一つは、建築分野です。ホテル、レストラン、オフィスの内装材として利用が広がっています。美しく、自然な風合いの和紙は海外でも評価は高く、私たちの和紙はパリの香水メーカーのショーウインドー、ニューヨークの寿司バーや法律事務所、キャンベラのレストランなど様々な場所で使われています。

また、芸術分野でも、和紙は国内外から注目されています。古くから和紙は書道や浮世絵などの芸術作品に使われてきましたが、近年、自然な風合いを持ち、しかも、非常に長持ちするという和紙の魅力に引かれ、書道、現代美術などの様々な分野のアーティストから、特定の作品用に和紙の製作を依頼されることが増えています。その一人、巨大な金属板を使った作品で国際的に著名なアメリカ人彫刻家、リチャード・セラさんには約15年前から和紙を版画作品に使っていただいており、ほぼ毎月、和紙を送っています。

和紙には今後、どのような可能性があるとお考えでしょうか。

和紙の原料である楮は毎年、三椏(みつまた)は3年毎に刈って収穫しますが、刈り取った株からもすぐに新しい芽が生えてきます。また、一般的な紙と比べると、和紙を作る時に必要な水や化学薬品の量は非常に少ないです。しかも、長持ちです。このように和紙は環境に優しいので、それを普及させることで、持続可能な開発目標(SDGs)に貢献できると考えています。

また、近年、東京のある老舗文具店は、手紙用の「巻紙」の品数を増やしています。手書きの手紙に魅力を感じて購入する人が増えているからです。社会のデジタル化が進む中で、アナログ的な方法が見直される動きがあります。これを踏まえ、今後、建物のインテリア向けに加え、はがき、便箋、名刺など、一般の方がコミュニケーションの道具として気軽に使って頂ける和紙製品を、国内外で更に増やすことを目指します。