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February 2020

ストーブで身も心も温まる旅

青森県の文化芸術の豊かな津軽地方を走る「ストーブ列車」は、寒さが厳しい季節の旅を温かなものにしてくれる。

本州の北端、青森県の津軽半島中央部を南北に走る津軽鉄道は、五所川原市の津軽五所川原駅と中泊町の津軽中里駅を約40分で結ぶ20.7キロの路線である。津軽鉄道は、夏には地元を代表する焼き物「津軽金山焼」の風鈴を車内につるした「風鈴列車」、秋には美しい声で鳴く鈴虫を入れた籠を車内に置いた「鈴虫列車」といったイベント列車を運行している。そして、特に有名なのが冬の「ストーブ列車」である。ストーブ列車は石炭を燃料とするストーブが設置された列車で、1930年の津軽鉄道開業以来、ほぼ毎年、運行されてきた。

「ストーブ列車は地元の人にはなじみのものでしたが、1980年代から、青森県の冬の名物として観光客の人気を集めるようになりました」と津軽鉄道の舘山広一さんは話す。

例年、ストーブ列車は12月1日から3月31日まで、一日に3往復しており、2両編成のうちの1両に2基のストーブが設置されている。ストーブは「ダルマストーブ」と呼ばれる丸みを帯びたもので、ガスや石油を燃料とする暖房器具が普及する前に日本で広く使用されていた。

ストーブ列車では、ストーブの上に載った網で、イカを日干しにした「スルメ」をあぶって食べられる。乗客が持ち込むこともできるが、車内で青森県産のものを購入することもできる。列車に同乗している「津軽半島観光アテンダント」にスルメをあぶってもらうのも良い。ストーブ列車が走る頃、辺りは雪に覆われ、最も寒い時期には、日中の外気温がマイナス10度ほどに下がる日もあるが、あぶったばかりの熱々のスルメをかじりながら、やはり車内で買う地酒を一緒に飲めば、身も心も温まる。

平均時速約30キロというゆっくりとした速度で走る列車からは、広大な銀世界が楽しめる。また、天気が良い日には雄大で美しい山体を持つ、標高1,625メートルの岩木山を望むことができる。岩木山は別名「津軽富士」と呼ばれる津軽地方のシンボルである。

「観光客の方々は、雪原の広がりと岩木山の美しさに感激しますが、天気が荒れた時には、その地吹雪のすごさに驚きます」と舘山さんは話す。

津軽鉄道沿線には、津軽地方の伝統文化を楽しめる観光地もある。その一つが津軽五所川原駅から歩いて5分ほどの「立佞武多の館」である。立佞武多(たちねぷた)は、毎年8月初旬に開催される「立佞武多祭り」で、五所川原市中心部を巡回する巨大山車である。台座の上に載った武者などの色鮮やかな紙製の人形が見所の「ねぷた祭り」は青森県各地で夏に開催されるが、五所川原市の立佞武多は高さが約23メートルと、他の地域の山車と比較して非常に高いことが大きな特徴となっている。立佞武多の館には、3基の立佞武多が常設展示されているほか、製作現場の見学や、5月〜6月には、実際に祭りで使用する立佞武多の紙貼りを体験することができる。

もう一つが、金木駅から歩いて約10分にある金木町の「津軽三味線会館」である。津軽三味線は、江戸時代に日本で広まった弦楽器、三味線を使った音楽で、同町出身の仁太坊(にたぼう)が明治時代初期に生み出した。即興性が高く、早いテンポで、弦にバチをたたきつけるように演奏し、音が大きいのが特徴である。津軽三味線会館では、三味線の展示や生演奏を楽しむことができる。

「この地域の人や田舎の雰囲気が大好きになり、東京から年に何回もいらっしゃる方もいます。是非、津軽鉄道で旅をして、古き良き日本の雰囲気を味わっていただきたいです」と舘山さんは話す。