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Highlighting JAPAN

穏やかな海に抱かれた鉄道

長崎県を走る大村線に乗れば、車窓に広がる大村湾の穏やかな海の眺めを堪能することができる。また、欧州の街並みを再現したテーマパークや伝統的な磁器の町を訪れることができる。

九州旅客鉄道(JR九州)の大村線は、長崎県北部にある佐世保市の早岐駅と同県中央部にある諫早市の諫早駅を結ぶ47.6キロの路線で、その大部分の区間が大村湾の東岸沿いを走っている。長崎県のほぼ中央に位置する大村湾は、南北に約25キロ、東西に約12キロという大きな湾であるが、外海とつながる北岸の一部を除き、四方を陸地に囲まれているため、湖のように穏やかである。大村線の中でも、特に海沿いを走る川棚駅から松原駅までの区間は、車窓から静かに広がる大村湾を眺められる。中でも千綿駅は、大村湾に沈む美しい夕日を見られる駅として有名で、全国各地から観光客が訪れる。趣ある木造の駅舎に駅員は常駐していないが、カフェ「千綿食堂」が営業しており、地元産のお米や野菜を使ったカレーや飲み物が提供されている。

「刻々と変化する空の色が本当に素晴らしいです。ほとんど毎日、夕日が沈むのを見ていますが、一日として同じ色の空の日はありません。私が特に好きなのは、夕日が沈んだばかりの空の色です」と、夫と千綿食堂を営む湯下香織さんは言う。

大村線には普通列車とは別に、特別列車が走っている。その一つが、「ななつ星 in 九州」である。2013年から運行を開始しているななつ星は、九州を周遊する豪華列車である。1泊2日のコースと3泊4日のコースがあるが、九州北部を巡る1泊2日のコースでは、ちょうど夕日に輝く大村湾を眺めながらフルコースの夕食を楽しめるようにダイヤが設定されている。

また、主に週末に一日一往復、大村湾の北に位置する佐世保駅と、南に位置する長崎駅との間を大村線経由で、豪華列車「或る列車」も運行されている(運行コースは変更する場合がある)。コンセプトであるAmazing・Royal・Universalの頭文字を取って名付けられ、100年以上前の列車を参考にデザインされた「或る列車」では、東京でレストランを経営する世界的なシェフが監修したコースが提供される。料理には質の高い九州産の食材がふんだんに使われている。

大村線沿線には大村湾の他にも、様々な見所がある。大村湾北岸にある「ハウステンボス」はハウステンボス駅から徒歩5分、広さ1.52平方キロメートルという日本一の広さを持つテーマパークである。1992年に開園したハウステンボスは、四季折々様々な花が咲き誇り、日本屈指のイルミネーションや毎日繰り広げられるエンターテインメントの数々、最新技術を使用したアトラクションなど一日では遊びきれない魅力がたっぷりである。

また、川棚駅から車で北へ20分程行った山間には、隣接する有田町と同様に、磁器の町として有名な波佐見町がある。17世紀初頭に生まれた波佐見焼は、傾斜地を利用した30基を超える「登窯」で大量生産されてきた。皿や椀など日常的に使われる食器が中心で、江戸時代には日本国内のみならずヨーロッパや東南アジアへも輸出された。

「波佐見焼は軽くて丈夫なのが大きな特徴です。また、伝統的なものから現代的なものまで、そのデザインも非常に魅力的です」と、千綿食堂で波佐見焼の食器を使っている湯下さんは話す。

波佐見町の一角にある中尾山地区は、約15の窯元が集まる集落で、煉瓦造りの煙突が立つ街並みは、歴史を感じさせる。集落の「中尾山交流館」では中尾山の窯元の作品が一堂に展示・販売されており、「中尾山伝習館」では陶芸作りを体験することができる。また、国史跡で、約300年間操業されていた全長約160メートルの巨大登窯「中尾上登窯跡」も見学できる。中尾山では春と秋に陶芸祭りが開催され、多くの人でにぎわう。

大村線で旅をすれば、大村湾の景色と合わせて、現代的なエンターテイメントから地域の伝統文化まで堪能することができる。