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Highlighting JAPAN

 

地域が育む和食


日本は南北に細長く伸びた狭い国土ながらも、全国各地に地域の食材を使った多種多様な料理がある。フードジャーナリストとして長年、各地の料理を取材し、数多くの生産者や料理人にインタビューを行ってきた向笠千恵子さんに、伝統的な日本食の特徴や魅力を伺った。

伝統的な日本食の主な特徴をお教えください。

日本は四方を海に囲まれ、山がちの国土のため、海と山の食材を使った様々な料理が全国各地にあることが、「和食」と呼ばれる伝統的な日本食の大きな特徴です。各地に食材を長持ちさせるための独自の調理方法や保存方法があり、海から離れた地域であっても、魚介類を使った料理が古くから食べられています。季節によって獲れる食材が変わるので、その季節にしか食べられない料理もありますし、正月など特別な日のためだけに作られる料理もあります。和食の根幹と言える、醤油や味噌といった発酵調味料も各地域で味が異なっています。また、鰹をいぶして作る鰹節や、昆布、干した小魚をお湯で煮出した「出汁」を使うことで、「旨み」のある料理が生み出されてきたことも和食の特徴です。世界でも日本は、食材、味、料理が最も多様性に富んだ国の一つではないでしょうか。

各地の伝統的な郷土料理のどのような点に興味を惹かれるでしょうか。

各地の個性的な料理の魅力は、味はもちろんですが、それぞれの成り立ちに物語があることです。郷土料理は人々の生活の中で生まれ、そして変化していきます。例えば、山形県の芋煮です。芋煮は江戸時代に、山形県を流れる最上川の船頭が、河原でタラの干物の棒ダラと山形の特産である里芋とを鍋で煮込んで作ったのが始まりと伝えられています。明治時代に西洋の食文化が広がると、以前は日本で一般的に食べられていなかった牛肉や豚肉が芋煮の具に加わりました。さらに、秋には家族や友人が集まり、河原で芋煮を食べる「芋煮会」というパーティーも行われるようになり、芋煮という食文化が今に引き継がれているのです。

保存のための様々な工夫が凝らされた発酵食品も郷土料理の魅力です。魚を塩と米に漬けて乳酸発酵させた「なれずし」は代表的な発酵食品の一つです。琵琶湖のフナを使った「ふなずし」は滋賀県の、サバを使った「へしこ」は福井県などの特産品です。また、和歌山県新宮市は、サンマのなれずしが名物で、ヨーグルト状にとろとろに溶けた「30年もの」を売っているお店には、国内外から数多くお客さんが訪れています。なれずしには免疫力を高める乳酸菌が豊富に含まれており、健康にもとても良いのです。

食に関わる人で印象に残っている方をお教えください。

日本の伝統的な食文化を守るために、一生懸命取り組んでいる方々が全国各地にたくさんいらっしゃいます。九州の宮崎県都城市に住む、91歳の徳重文子さんもその一人です。徳重さんは、無農薬で梅を栽培し、梅干しなどの梅を使った食品を作り、また販売しています。梅干しは日本の伝統食品で、梅の実を塩漬けにした後、天日干しし、更に漬け込んで作ります。ご飯のお供として食べるのが一般的ですが、殺菌効果も高く、古くから民間薬としても重宝されています。子どもの頃から病弱だった徳重さんも、体調が悪い時には梅干しを食べていたそうです。自分の健康を支えた梅干しを一人でも多くの人に広めたいという思いから、徳重さんは約35年前に自ら会社を設立しました。当時は、原料の生産から販売まで行い、しかも女性が経営している会社はほとんどありませんでした。徳重さんは数々の困難に直面しましたが、彼女の梅干しは味が素晴らしく、健康にも良いという評判が高まり、全国から注文が集まるようになりました。今も、後継者の孫にその技を伝えるとともに、梅干し作りを頑張っています。

日本を旅行する外国人の皆さんに和食を楽しむためのアドバイスをお願いします。

評価の高い、地方の農家民宿に宿泊することをお薦めします。そうした宿では、伝統的な日本の朝食を食べることができます。朝食には、ご飯、漬物、味噌汁、おかずと和食の原点と言える食べ物がそろっています。地域によって、水も気候も違いますので、ご飯の香りも味も違います。漬物の材料となるナス、キュウリ、カブなどの野菜も、全国で栽培されていますが様々な在来品種があるので、漬物の味も地域で異なります。地元の新鮮な食材を使った農家レストランも各地で増えています。東京でも、千住ネギや寺島ナスなど「江戸東京野菜」と呼ばれる伝統野菜を使用する居酒屋やお蕎麦さんなどの店があります。そうしたお店で日本伝統の味を楽しんでいただきたいです。