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Highlighting JAPAN

景観を損ねない透明なアンテナ

景観を損なわずに、既存の窓ガラスに貼り付けられ、電波の送受信が可能となる「ガラスアンテナ」が開発された。

携帯電話を使い、通話をしたり、インターネットを見たり、メールを送ったりするためには、「基地局」が不可欠である。基地局はアンテナと無線機で構成され、大小様々な基地局が鉄塔、ビル、電柱などに設置されている。その数は日本全国で約86万基に上る。こうした基地局を介して、携帯電話の電波が送受信されているのである。

近年、携帯電話などの移動体通信の利用の増加とともに、トラヒック(データ通信量)も増大し、安定した高速通信に向けて対策が必要となる。NTTドコモでは、トラヒックが多いエリアに、小さいサービスエリアを実現する「スモールセル基地局」を複数増設し、トラヒックを分散させることで、改善をはかっている。しかし、都市部での基地局の増設は簡単ではない。

「スモールセル基地局をビルの中低層階に設置しようとすると、街の景観を損なうため、ビルのオーナーから許可を得ることが難しいのです。ビルの室内に設置した場合も、室内の意匠性を損なうだけではなく、電波が建物を通過する時に減衰するため、理想的なエリアを構築することが難しいです」とNTTドコモの無線アクセスネットワーク部の上田明頌さんは話す。

こうした問題を解決するために、NTTドコモが大手ガラスメーカーのAGCと共同開発し、2018年11月に発表したのが、「ガラスアンテナ」である。その大きさは幅85センチ、縦21.2センチ、厚さ6.6ミリで、一見すると、普通の透明なガラスである。このガラスアンテナを、室内の窓ガラスに貼り付け、天井裏に設置したケーブルと無線機につなげば、基地局となる。

ガラスアンテナには、自動車のフロントガラスとして使われる「合わせガラス」の製造方法が応用されている。合わせガラスは、強度を増すために、ガラスとガラスの間に樹脂を挟み込んだ後、高温で樹脂を溶かし、ガラスを一体化させたものである。ガラスアンテナも、ガラスとガラスの間に透明な樹脂と導電材料を挟み込み、一体化させた構造になっている。この導電材料に電気を通すことで、電波を送受信できるアンテナとなる。

「透明な導電材料をアンテナとして利用するというアイデアはこれまではなかったと思います。導電材料をガラスで挟み込むことで、アンテナとしての耐久性も格段に上がります」とAGCビルディング・産業ガラスカンパニーの岡賢太郎さんは話す。

また、ガラスアンテナには、新たに開発された「Glass Interface Layer」(GIL)が使われている。GILはガラスアンテナの表面に重ねられた特殊なガラスの層で、窓ガラスを通過した時に生じる、電波の減衰、反射を抑える役割を果たす。窓ガラスの厚さは、設置されている建物や階層、あるいは窓のサイズによって様々である。どのくらい電波が減衰、反射するかは窓の厚さによって変わるが、最適なGILの種類を選択することで、どのような厚さの窓ガラスに設置しても、適切に送受信ができるようになっている。

ガラスアンテナは現在、販売の準備が進められているが、国内の携帯電話会社だけではなく海外からも数多くの問い合わせが寄せられている。

今後、NTTドコモとAGCは次世代の移動通信システムである「5G」に対応したガラスアンテナの開発を検討している。5Gは超高速で大容量の通信を可能にするが、その電波は建物や大気、雨などが障害となってと減衰しやすいという欠点がある。

「5Gの導入が進めば、数多くの基地局が必要になります。景観を損なわずに設置できるガラスアンテナのニーズは、さらに大きくなるでしょう」とNTTドコモの無線アクセスネットワーク部の勝山幸人さんは話す。