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Highlighting JAPAN

大都会と世界遺産を結ぶ旅

大阪府と和歌山県を走る南海電鉄高野線に乗ると、ネオン瞬く繁華街、ユニークな形をした巨大古墳、緑に包まれた日本の仏教の聖地など、古代から現代に至る日本の多様な文化、歴史を堪能することができる。

南海電気鉄道株式会社(南海電鉄)は1885年に大阪の財界人が中心となって設立された鉄道会社である。現存する民間鉄道会社の中では最も長い歴史があり、大阪市中央区のなんば駅を起点に、関西国際空港や、和歌山県和歌山市、和歌山県高野町などを結ぶ路線を運行している。このうち、なんば駅から高野町の高野山駅まで64.4キロメートルを結ぶ路線が高野線である。

「高野線の魅力は、大阪の中心のなんば駅から山深くにある高野山まで移り変わる風景を楽しんでいただける所です。沿線には2つの世界遺産登録地などがあり、見所も多いです」と南海電鉄運輸部の藤本香織さんは話す。

なんば駅は「ミナミ」と呼ばれる地域にある。ミナミは、たこ焼きやお好み焼きなどの大阪の食文化を楽しめる飲食店、漫才や歌舞伎などの芸能を鑑賞できる劇場などが密集する、大阪を代表する繁華街である。なんば駅のターミナルビル「南海ビル」はミナミを象徴する建物の一つで、1932年に竣工した。コリント式と呼ばれる古代ギリシャ風の大きな柱が並び、テラコッタ(装飾用の素焼きの陶器)が敷き詰められた外観は、格調高い雰囲気を生み出しており、国の登録有形文化財に登録されている。

なんば駅から列車に乗り、ビルや住宅の間を15分ほど走ると、大阪府堺市の三国ケ丘駅に到着する。この駅の西側にあるのが、2019年7月に世界遺産に登録された「百舌鳥・古市古墳群 —古代日本の墳墓群—」の構成遺産の一つ、日本最大規模の仁徳天皇陵古墳である。仁徳天皇陵古墳は、円と四角を連結した鍵穴のような形をし、木々に覆われた墳丘は3つの濠に囲まれている。仁徳天皇陵古墳以外にも、堺市に隣接する羽曳野市や藤井寺市には、4世紀後半から5世紀後半に建造された古墳が数多く残されており、仁徳天皇陵古墳を含む49の古墳が世界遺産の構成遺産となっている。

なんばから列車で、約50分で和歌山県橋本市の橋本駅に到着する。ここから高野山の麓にある極楽橋駅までの19.8キロメートルは、急勾配の区間で、24ものトンネルがある。この区間を1日2〜3往復している4両編成(指定席2両、自由席2両)の観光列車が「天空」である。天空の車体は森林をイメージした濃い緑を基調にして、根本大塔をイメージした朱色のラインがデザインされている。また、車内の座席、床などには木材が使われ、窓のブラインドや座席のシートには高野山に生息するモリアオガエルがさりげなくデザインされている。

「車内から高野山麓の緑を存分に楽しんで頂けるように窓を大きくしており、座席の多くは窓側を向いています。また、展望デッキを設けていますので、そこで山々の澄んだ空気も感じていただきたいです」と藤本さんは話す。

橋本駅から山中をゆっくりと約40分走ると、標高535メートルの極楽橋駅に着く。ここでケーブルカーに乗り換えとなる。2019年3月に導入された新型ケーブルカーは、まるで壁のような急傾斜の坂を登っていき、約5分で標高867メートルの、高野線終点となる高野山駅に達する。高野山駅の駅舎は1928年に建てられた木造2階建てで、国の登録有形文化財に指定されている。2階には高野山沿線の歴史や観光を紹介するコーナーが設けられ、展望室からは橋本市街が見渡せる。

そして、高野山駅からバスに15分ほど乗ると、2004年に「紀伊山地の霊場と参詣道」として世界遺産に登録された高野山へと入っていく。高野山は約1200年前に弘法大師・空海が開いた仏教の聖地である。高野山には金剛峯寺など多くの寺院があり、年間を通じて数多くの参拝者、観光客が訪れている。 高野線に乗れば、大都会の賑わいや聖地の静寂を味わえるだけではなく、古代から現代までの日本の文化、歴史を知る旅ができる。