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Highlighting JAPAN

北斎故郷の美術館

「すみだ北斎美術館」では、世界的な浮世絵師である葛飾北斎の名作を数多く見ることができる。

葛飾北斎(1760~1849)は、海外では「Great Wave」(大波)として知られる「神奈川沖浪裏」を含む「冨嶽三十六景」シリーズや美人画が有名な浮世絵師である。その作品の数々は、日本だけでなくヨーロッパなど海外の絵画に多大な影響を与えた。アメリカの『ザ・ライフ・ミレニアム』が1998年発表した「この1000年で最も偉大な業績を残した100人」に、日本人として、ただ一人選ばれている。

北斎が生まれた、現在の東京都墨田区に「すみだ北斎美術館」がある。美術館は両国国技館や江戸東京博物館の最寄り駅でもある両国駅から少し歩いた一角に建っている。副館長の水上千秋さんは次のように語る。

「北斎は墨田区で生まれ、生涯のほとんどを墨田区内で過ごしながら、優れた作品を数多く残しました。墨田区は、この郷土の偉大な芸術家である北斎を『区民の誇り』として永く顕彰するとともに、地域の産業や観光にも寄与する“地域活性化の拠点”として、2016年にこの美術館を開設したのです」

同美術館の収蔵作品には、墨田区が独自に収集してきた作品の他に、かつて個人のコレクターが収集してきた2つの作品群がある。一つは北斎の研究者であり、世界有数の北斎作品コレクターでもあったピーター・モースのコレクション、もう一つは、貴重な資料を収集し研究してきた浮世絵研究の第一人者である楢﨑宗重のコレクションである。これらのコレクションを活用し、多彩で独自性のあるテーマの企画展を開催している。

北斎作品の魅力について、学芸員の長谷川暢子さんはこう語る。

「北斎は、約70年の創作活動の間に数多くの作品を残しましたが、一見すると、一人の絵師が描いたとは思えないほど画風の違いが見られます。錦絵(多色摺りの木版画)をきっかけに北斎を知った人が肉筆画に魅了されるなど、多面的な魅力を持っていることも人気の秘密だと思います」

2019年9月10日~11月4日には、葛飾北斎没後170年を記念して、企画展「茂木本家美術館の北斎名品展」を開催している。北斎の代表的なシリーズとして知られる「冨嶽三十六景」、「諸国名橋奇覧」のほか、「北斎漫画」全冊、「富嶽百景」など116点の北斎関連作品を展示する。数多くの浮世絵の名作を所蔵する茂木本家美術館の北斎関連作品を一挙に公開する展示は、今回が初めてである。

美術館には浮世絵のほか、北斎の弟子の絵から再現した実物大のアトリエの模型が常設展示されている。同居している娘のそばで、絵筆を握った、およそ84歳の北斎の人形は、非常にリアルである。この他、錦絵の制作工程を、映像を交えて紹介したり、高精密画像モニタで錦絵を鑑賞するコーナーもある。

すみだ北斎美術館を訪れるなら、是非建物にも注目してほしい。建築界のノーベル賞と称されるプリツカー賞を受賞した建築家・妹島和世が手掛けた作品である。

「建物の外壁は、淡い鏡面のアルミパネルを使用しており、周辺地域の風景に溶け込んでいます。来館者のほとんどが、建物の写真を撮っておられます」と水上副館長は言う。

今後は、更に海外からの来館者を増やし、北斎の魅力を世界に広げたいと、水上副館長は語る。

「現在、6言語のパンフレットを用意していますが、更に館内の多言語化を進めます。様々な方法での発信を強化していきたいです」

両国駅からすみだ北斎美術館の前を通って東へとまっすぐ伸びる「北斎通り」沿いの街路灯の柱や公衆トイレの壁などに、北斎作品をモチーフにした絵があちこちに見かけられる。町の中で北斎の絵をゆっくりと鑑賞しながら、美術館に足を運んでみてはいかがだろうか。