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Highlighting JAPAN

10か国語で「おはようございます」

横浜市立飯田北いちょう小学校は、地域の自治会やボランティア団体と連携して、多文化共生を柱にした教育活動を実践している。その中で、児童の寛容な心が自然に培われている。

横浜の市立「飯田北いちょう小学校」の校舎の玄関には日本語を含め10か国語で「おはようございます」と張り紙がしてある。この小学校では、全校児童235名のうちの半数が外国籍または外国にルーツを持つ児童である。国籍はベトナムが最多で、次いで中国、カンボジア、ラオスなどアジアが中心である。

「朝、昇降口で児童運営委員会の子どもたちが自分たちの活動として、色々な国の言葉で、登校する子どもたちを出迎えます。私たち職員が挨拶の見本になるように、元気な挨拶を心掛けて子どもたちを迎えます」と語るのは、同校の宮澤千澄校長である。

外国籍児童が増えた背景には、1970年代中頃のインドシナ難民の存在があった。ベトナム、ラオス、カンボジアでの政権移行の際、約140万の人びとが祖国を離れ難民となった。1979年、日本政府は、彼らの一部を受け入れ、日本語や文化、習慣を学び、定住化を支援する定住促進センターを設立した。その一つが、横浜市の隣、大和市に1980年から1998年まで存在していたのである。

このセンターで一定期間の日本語教育や生活ガイダンスを受けた難民たちの多くが、飯田北いちょう小学校の学区にある県営団地に入居したため、同校にこれら3国とつながりを持つ児童が増えることになった。1990年代に入ると、彼らを含め外国人住民が家族や友人を呼び寄せ、児童の数も更に増加していった。

 同校では、こうした状況に合わせて、複数の教諭による指導体制を整えている。

「国語と算数は、日本語での学習の理解度に応じて、3~5クラスに分けて授業を行っています。他の教科でも、授業中は正規職員のほかに、外国語補助指導員や中国語、ベトナム語、カンボジア語の通訳ボランティアが児童をサポートしています。授業でわからないことがあった時に、補助指導員が通訳し、児童が日本語で答えられるようフォローするのです」と宮澤校長は説明する。

飯田北いちょう小学校では、児童だけでなく保護者に対する支援体制にも力を入れている。

「学校から親に渡す書類は、ベトナム語、中国語、カンボジア語にできるだけ翻訳します。また、例えば遠足の持ち物を連絡する場合、言葉だけでなく、可能な限り写真を使うように心掛けています。通訳の方が保護者の電話相談も受けています」と宮澤校長は話す。

運動会などの学校行事では、日本語のわからない保護者も理解できるように、日本語の後に児童がそれぞれの言語でアナウンスを行う。運動会で行われる全校ダンスには保護者や教員も参加し、毎年、プログラムの一つとして、中国、ベトナム、カンボジア等の踊りが順番に取り入れられている。学校だけでなく、団地自治会や、団地に暮らす外国人の支援を行うボランティア団体も、地域活動の一環として学校を支援している。

 「私はこの学校に赴任して4年目になりますが、国籍や外見の違いで差別したり、偏見を持ったりする子どもを見たことがありません。幼い時から、多様な背景を持った人たちと身近に接してきたためか、“みんな違うのが当たり前”という感覚が身に付いているのです。卒業後は、他の地域の仲間たちに、その寛容な心、違いを受け止める心を伝えていってほしいですね」と宮澤校長は語る。

多くの外国人を受け入れ、そこで醸成された文化の中で、共に生き、共に学んでいくことは、外国人児童の住みやすさをより一層推進すると同時に、日本人児童の心の成長にも大いに寄与している。