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Highlighting JAPAN

言葉の壁を取り除く

ペルー出身のカブレホス・セサルさんは、日本であらゆる国の人が安心して過ごせるように、多言語通訳サービスの普及に取り組んでいる。

訪日外国人旅行者や在留外国人が増える中、病気やケガをした外国人が日本の病院で診察を受けることは珍しくなくなっている。厚生労働省が2018年10月の1ヶ月間の外国人患者の受入れについて、全国の病院を対象にアンケート調査を行ったところ、回答が得られた3,980病院のうち、49%に当たる1,965病院が外国人患者を受け入れており、1,000人以上受け入れた病院も7病院あったことが明らかとなった。病院のみならず、各地の消防、警察、自治体にも外国人からの緊急連絡が数多く寄せされるようになっており、多言語で、正確かつ迅速に言葉を通訳できる環境整備が重要となっている。

こうした中、東京のランゲージワン株式会社は、電話による三者通話での通訳を行う多言語コールセンターサービスを提供している。同社のコールセンターには約40名のスタッフが常駐しており、契約を結んだ公共機関や民間企業から通訳の要請があった場合、24時間、最大13言語で対応できるサービス体制を整えている。医療通訳の場合、約200の医療施設で、通訳スタッフが電話やタブレットを通じ、医師や看護師と患者との会話の通訳を行っている。その数は、年間1,200件以上に上る。

「医療通訳は人の命に関わるのでミスが許されません。原則的に、一人が通訳し、もう一人がそれを監督するという2名態勢で対応しています」と同社営業部のセサル・カブレホスさんは話す。

カブレホスさんはペルー出身の日系3世で、1990年、11歳の時に両親と来日した。2011年にランゲージワンの立ち上げに参画、同社の通訳を経て、現在はサービスの普及に取り組んでいる。

ランゲージワンのこれまでの契約先は、病院に加え、消防、警察、弁護士会、不動産会社、鉄道会社、自治体など多岐にわたる。この中でも、火災、急病など緊急時に消防車や救急車の派遣を要請する119番通報を通訳するサービスは、同社が2012年に埼玉県のさいたま市消防局に協力して立ち上げたことがきっかけとなり、全国へと広がった。さいたま市消防局が先例となり、現在では、全国728の消防本部(消防局)のうち、298の消防本部で119番通報の通訳サービスが導入されている。

119番通報は、迅速な対応が求められる。同社のコールセンターに消防本部から通訳の要請が入ると、通訳を担当するスタッフに電話がすぐにつながるシステムを構築している。

「私はさいたま市消防局で119番通報を受ける職員の仕事を実際に見たことがありますが、人の命を救うために懸命に働く職員の姿を目の当たりにして、本当に感動しました。その時、この人たちの期待以上の仕事をしたいと強く思いました」とカブレホスさんは語る。

カブレホスさんは、通訳を行うだけではなく、多言語通訳サービスが提供されていることを外国人に広報する活動も行っている。日本司法支援センター(法テラス)の多言語情報提供サービスもその一つである。法テラスは法的トラブル解決を支援する組織で、誰もが無料で刑事・民事を問わず、法制度や相談窓口等についての情報提供を受けることができる。カブレホスさんらは各国の在日大使館を訪れ、外国人も法テラスを利用できることを説明し、いざという時に利用してもらえるよう、このサービスの告知活動を行っている。

カブレホスさんが現在、力を入れているのが災害時の外国人支援である。これまでも2016年の熊本地震や2018年の北海道胆振東部地震などの災害時に、無償で外国人被災者からの問い合わせを通訳するサービスを提供しているが、今後、自治体やNPOと協力して、外国人被災者を支援するサービスの更なる普及を図っていく。

「私は一人でも多くの困っている外国人を助けたいのです。日本の行き届いた公共サービスを外国人も使えるように橋渡しすることが私の使命です」とカブレホスさんは話す。