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Highlighting JAPAN

 

 

日本で医師になったエジプト人の次なる夢

「そこにチャレンジがあるか」。オサマ・イブラヒムさんは人生の岐路で常にこの視点を優先してきた。日本の医師国家試験に合格し、眼科医として活躍する彼に、自身が歩んできた道と次なる夢を聞いた。

オサマさんの今を作った原点は、子どもの頃に胸をときめかせて読んだ、スパイ小説に登場する主人公のスーパーヒーローである。「多言語を話し、スポーツ万能、飛行機を操縦して世界を飛び回る。彼に憧れ、空軍のパイロットになりたかったのですが、母に猛反対されました。そこで小説中の別の登場人物で、国際的に活躍する医師にロールモデルを置き換えました」とオサマさんは話す。アレキサンドリア大学医学部に入学し、エジプトでは医師の中でも特に権威が高い眼科医を志した。

卒業後、世界基準の医学を学ぶため留学を希望した。エジプト人医師の場合はアメリカ、イギリスなどが一般的だが、オサマさんは「既に出来上がっている環境は面白くない。ではどこに留学すべきか――すぐ日本を連想しました。イタリア留学中に(その後妻となった)日本人女性と知り合って興味を持った、子どもの頃空手を学び親近感を持っていた、戦後急速な復興を成し遂げた経済大国である、そして眼科治療で世界トップレベルの医療技術があるなどの理由があったからです。その時、私はほとんど日本語を理解できませんでしたが大学院の4年間で並行して勉強し、医師として必要なレベルを体得しようと決心しました。日本で医師国家試験に合格し、ほかのエジプト人が歩いたことのない道を歩こうと思ったのです」と語る。

慶応義塾大学大学院時代は外来対応、研究、学会準備など多忙を極めたが、就寝前には日本語学習2時間を必ず自分に課した。4年かかる大学院を3年で修了し、外国人にとって最難関の日本語能力試験N1、更に厚生労働省の医師国家試験受験資格の認定も受け、2016年に日本の医師国家試験に合格した。

穏やかな口調でオサマさんは自身の来歴を振り返る。まとめるとスムーズなようだが、来日してからは本当に自分が日本で医師になれるのか見通すことができず精神的、肉体的に辛い日々だったと言う。「それでもボランティアの日本人女性がスカイプで日本語学習をサポートしてくれたり、アルバイトで出演したNHKアラビア語講座で人前で話すスキルを身に付けられたなど、少しずつ自分の成長を実感することができました」と笑顔で話す。

医師として働き始めてから、改めて日本の良さに気が付いたと言う。「院長はもちろん、清掃スタッフに至るまで全ての人々が各自の役割に誇りを持ち、責任を全うしています。だからこそ全システムが円滑に回り、安心して快適に医療に集中することができます」オサマさんは現在、角膜移植で日本トップレベルの実績を持つ東京歯科大学市川総合病院に勤務している。「ここで日本ならではの繊細で確かな角膜移植技術を身に付けたい。そしていずれは中東で白内障など目の病気に悩む患者を救いたいと考えています。また、私の下にはエジプト人を含む多様な国の医学生から、日本で医師として活躍するにはどうすれば良いかアドバイスを求めるメールが急増しています。私の経験を伝え、彼らと日本をつなぐ架け橋になれれば、とも考えています」とオサマさんは目を輝かせる。

最後に医療以外で叶えたい夢を聞くと「やはりパイロットになる夢を諦められませんね」。有言実行を貫いてきたオサマさんなら、本当にライセンスを獲得できるかもしれない。