Home > Highlighting JAPAN > Highlighting Japan March 2019 > 日本の風呂と生活

Highlighting JAPAN

 

 

被災者の心身に安息もたらす自衛隊の入浴支援

被災地自治体の要請に応じて行われる自衛隊の活動は、人命救助、給水・給食支援や物資輸送など多岐に及ぶ。中でも被災者の心身を癒やし、感謝の声が多く寄せられるのが「入浴支援」である。

大規模災害によってライフラインがストップすると、被災地は多様な不便を強いられる。飲料水、食料、トイレ、就寝…そして入浴ができないことのストレスも決して小さくない。陸上自衛隊はその困難を軽減するため、被災地自治体の要請に応じて「入浴支援」を展開している。

陸上幕僚監部広報室の橋本政和3等陸佐は「入浴支援は1957年、700人以上の犠牲者を伴った諫早水害の被災地で初めて実施されました。この教訓をもとに、全国の陸上自衛隊の後方支援部隊に『野外入浴セット』が装備され、必要に応じて各被災地で展開しております。水は各地の給水施設からの供給受けや、陸自の『浄水セット』での浄水により準備し、専用のボイラーで沸かしたお湯を使います。下水溝が近い場所に設営し、テント生地などで作った排水管から下水溝へ流します。避難所が設置される学校、自治体施設の駐車場などに設営するケースが大半です」と説明する。

東京・練馬駐屯地を訪れ、実際にお湯を張った野外入浴セットを取材した。41~42度、約3.7tのお湯をたたえた巨大な浴槽にシャワー5基、洗い場も備えた浴場と脱衣所。入口には「練馬の湯」と描かれたのれんやのぼりがあり、浴場らしさを感じさせる。第1師団第1後方支援連隊補給隊隊長の泉良介3等陸佐は「混み合う場合もあるため、男女比、人数などに応じて、シャワー、照明を増やすなど臨機応変に対応しています。また、高齢者、幼児のサポート用として浴槽に踏み台、手すりを付ける等の工夫もしています。」と話す。なお、のれん、のぼりは部隊の所在地によって異なり、地名や名産品にちなんだ名前が描かれている。これによって国内のどの部隊の入浴支援であるかが分かる。

業務小隊長・海野哲也2等陸尉が続ける。「施設ではできるだけ快適に過ごしていただくことを心掛けております。浴槽内の髪の毛、垢などの洗浄やお湯の入れ替えはもちろん、シャンプー、石けんなども自治体等と協力して用意しています。また、脱衣所は足拭き用の珪藻土(けいそうど)マットを置いたり、定期的にモップを掛けるなどして水浸しにならないように配慮しています。さらに貴重品用のロッカーや沐浴用べビーバス、家族用の待合室を設置する場合もあります」

入浴支援に従事する自衛官達のモチベーションを大いに向上させるのが、利用者の笑顔や感謝の言葉、寄せ書きである。泉3等陸佐は「特に寄せ書きには『生き返った気分』『子どもが笑顔を取り戻した』『心底リラックスした』等々書かれており、冥利に尽きます。これからも大規模な災害発生時には自治体の要請に応じて入浴支援を展開し、被災された皆様の衛生面、ひいては心の健康のケアもさせていただければと考えております」と言う。

ちなみに海外の軍隊でも被災地での入浴支援は実施されているが、主流はシャワーブースを設置したコンテナなどで、陸上自衛隊のように巨大な浴槽も設ける例は見られないと言う。入浴時、湯に浸かる習慣を継続してきた日本ならではの災害支援のカタチだろう。