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Highlighting JAPAN

 

 

「魔女の宅急便」の角野栄子さんに訊く

児童文学賞で最も権威ある国際アンデルセン賞は「児童文学のノーベル賞」とも言われる。2018年作家賞を受賞した童話作家の角野栄子さんに、代表作『魔女の宅急便』などの創作秘話、制作環境を伺う。

『魔女の宅急便』は、アニメ化したジブリ映画の影響もあり、英語、イタリア語、中国語、スウェーデン語など多数の言語に翻訳され、海外にも多くの愛読者が存在する。幼く可愛い魔女の成長を描いたことが画期的だったこの作品の発想のヒントは、作者である角野栄子さんの娘さんが描いた、ラジオを聴く魔女の絵にあったと言う。「魔女がラジオを聴くなんて面白いと思ったのです。ほうきに乗って空を飛んだならどんな風景が見えるのか、どんな暮らしをしているのか。小説に書けば想像の中で見られるかなと、興味がどんどん膨らみました」
主人公キキが13歳の少女から35歳の母親となるまでの物語は、日本語版で6巻シリーズ、累計150万部以上、創作は足掛け25年にも及んだ。角野さんは「意図して成長物語を書こうというわけではなかった。大人のようでいてまだ子供という、難しい狭間にいる13歳の少女が、ただ一つだけ使える魔法を生かして、どう克服して次の段階へ行くだろうかと、追いかけて行ったら結果的にあの物語になりました」と振り返る。

現代女性の社会的成長にもなぞらえられることがあるが、作者としては「読み手が自由に解釈し想像するのが、その人なりの最高の読書」と、自由に読んで欲しいとも語る。読者からは、地方から上京した時や留学生として海外に渡った時など、新たな環境で挑戦を始める局面で何度も読み、身にしみたとの手紙をもらったそうだ。

童話作家として「幼い頃に培った好奇心が、その人を決する」との信条を持つ角野さんの言葉の原体験は、5歳で母を亡くして以来、父が歌うように聞かせてくれた昔話のオノマトペの響きにあると言う。本を読みあさる少女時代を送り、20代でブラジルでの生活を経験した。異なる言語や宗教の国で他者理解やコミュニケーションに努め、単なる意味以上に言葉が持つ大きな力を再認識した。自分は書くことが好きだと気付いたのは大人になってからである。

34歳で初めて書いた本はノンフィクションで、物語作家としてのデビューは42歳。「苦労はあったけれど、好きだから続けてこられた。締め切りは作らない方針で、ただ毎日真面目に書く。机から離れず、物語が書けない時は手紙を書いたりして、必ず体を書く体勢に持っていくのよ」。そのためにはまず健康じゃないとと84歳の作家は笑う。約50年もの作家生活を送り、現在も年1、2冊の出版ペースを落とさないと言う。

角野さんの童話を読んで育った人々が親となり、自分の子供に同じ童話を読ませたいと願う時代になった。今回の国際アンデルセン賞では、数々の代表作に加え、近年の作品『トンネルの森 1945』も高く評価された。角野さん自身が10歳の時に第2次世界大戦の終戦を迎えるまでに体験した孤独や恐怖、理不尽をぶれずに描き昇華した物語である。「今後は『トンネルの森』のその後の成長を書きたい。手元にあるエッセイやホラーの原稿もまとめて本にしていきたいですね」と、角野さんは旺盛な創作意欲を語ってくれた。