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Highlighting JAPAN

 

 

復興に向けた地域づくりと、なりわいの再生

遠野まごころネットは、東日本大震災を機に設立されたNPO法人である。岩手県沿岸部を中心に、海外にも被災地支援を広げる彼らの活動を聞いた。

遠野まごころネットの理事を務める多田一彦さんは、2011年3月11日に発生した東日本大震災の惨状を目の当たりにし、「できることをやろう」と決意したと言う。各地の避難所を回って必要なもののヒアリングと物資の配送を行いながら、3月末に遠野まごころネットを設立し、避難所訪問や瓦れき撤去などを続けた。

その中で多田さんは、長い避難所生活に疲弊し、近親者を失った悲しみに打ちひしがれた人々が、他者と関わることや外出をいとうようになる状況に危機感を覚えたと言う。することがないと、人は内にこもってしまう。だからこそ「支援する側が何でもやるよりも、自分たちでできることはしてもらうことが大切」と考え、炊き出し場やカフェがあり、人が集まって情報交換のできる場所として、まごころ広場を作った。当初の運営はボランティアが担ったが、徐々に地域の人へシフトしていったと言う。まごころ広場は各地に作られ、敷地内に地元の人が弁当屋や食堂を開業するなど、雇用創出に貢献していった。

人には衣食住だけでなく、「業=なりわい」も大事なものである。雇用がなければ復興どころか暮らし自体が成り立たず、人が暮らせる地域をつくることはできない。そう考える遠野まごころネットでは現在、大槌町と釜石市でまごころ就労支援センターを運営している。これは、被災地の障がい者が復興から取り残されないよう、各々の個性や能力に合った仕事を紹介する施設である。内容は農作物の育成や布小物づくりなどのほか、遠野まごころネットが手掛ける加工食品やワインの瓶へのラベル貼りなどがある。この加工食品の幾つかは、遠野市米通地区の女性たちのレシピが元となっているものだが住民19名、平均年齢70歳前後の米通地区は、2013年より遠野まごころネットと協力関係を結んでおり、この地で育てたクレソンの調味塩も人気商品だと言う。

また、ワインは遠野まごころネットが運営するソーシャルファーム&ワイナリーで造られた物で、まごころ就労支援センター釜石と遠野市寒風地区にある畑で育てたブドウを原料としている。この畑もまた、障がいを持つ人々のなりわいの場である。醸造責任者である小谷雄介さんによると、「2018年の販売数は350本、来年は1000本を超える見込み」と、順調に生産量を伸ばしている。「NPOといえど、普通の会社と同じように事業を成立させなければならない」との考えからワイナリー関連事業をスタートさせた小谷さんは、資金集めから畑の設計、原野の開墾なども行ってきた。小谷さんはこれらのワインに震災の風化を防ぐ役割を持たせながらも、「おいしいから」という理由で選ばれるようにしたいと考えている。

「こうしたなりわいづくりを進めながら、障がい者や高齢者も一緒になって働くことが普通の世の中にしていきたい」と、多田さんは語る。2018年秋には他企業との共同事業として「地域産業パートナーシップ協同組合」をスタートさせた。近年の地震で甚大な被害を受けたネパールとインドネシアに新規合弁会社を設立し、外国人実習生受け入れや教育や起業の支援といった相互交流を行っていくと言う。今までに培った知見を活かし、国内外を問わず支援の場を広げながら、遠野まごころネットはこれからもなりわいづくりを続けていく。