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Highlighting JAPAN

 

 

子供たちが自分の未来を創れる世の中に

「どんな環境に生まれ育っても、未来をつくりだす力を育める社会」を理念に活動するのが、認定NPO法人カタリバである。主な活動内容と今後の展望について、代表理事の今村久美さんに伺った。

カタリバの設立は2001年11月のことである。当時、大学生だった今村さんは「就職氷河期」と呼ばれる就職が困難な時期を過ごし、「良い大学を出て、良い企業に入れば幸せになれるわけではない」と実感していた。そのうち「生まれ育った環境に左右されず、誰もが自分の意思で未来を選択できる社会を創っていきたい」との思いを抱き、共感してくれた三箇山優花さんと共に10代の子供や若者たちを支える取組を始めた。

現代社会は災害の発生や経済的格差、都市と地方の地域格差など、多くの問題を抱えている。さらに、諸外国に比べて日本の若者の自己肯定感が低いことも問題の一つと考えるカタリバでは、親や行政とは異なるアプローチで全ての10代に意欲と創造性を届けられるよう、様々な活動を行っていると言う。例えば、東京都足立区の委託事業「アダチベース」は、様々な困難を抱える子供たちを対象とした取組である。例えば、家で一人過ごしたくないからと町へ出て、トラブルに巻き込まれることも少なくない。そこで安心して過ごせる安全な居場所として「アダチベース」を提供し、学習支援や体験プログラムを通じて子供たちの自立・自律をサポートしている。

子供たちはここで様々な人と出会い、関わりを持ちながら初めてのことを体験していく。中には「こんなに自分の話を人にするのは初めて」と感じる子供もいると言う。「アダチベース」では食事の提供もあるが、鍋料理を囲んだときは「テレビで見たように、本当にみんなでつつくんだ」と実感する子もいた。「こうしたささやかな出来事を重ねていき、自分がどんな大人になりたいかを感じるきっかけになれば」と、今村さんは語っている。

被災地の子供たちへ、落ち着いて勉強したり、過ごしたりできる場を提供する「コラボ・スクール」も、カタリバの活動の一つである。被災地では小さい子供や高齢者へのケアが優先され、10代の子供は後回しになることも多い。彼らはまだ精神的にもろいにも関わらず、現地では支える側になることを期待されるのである。そんな状況に対し、カタリバは10代の支援専門家として「コラボ・スクール」という形で被災地をサポートしている。現在の拠点は、東日本大震災で被災した宮城県女川町、岩手県大槌町、福島県広野町と、熊本地震で被災した熊本県益城町、西日本豪雨で被災した岡山県矢掛町の5箇所である。7年前に「コラボ・スクール」に通い、現在は大学生という子供も多く、「カタリバに出会わなかったら大学進学は選択しなかった。世界の広さや学ぶことの大切さを実感できた」という声も聞こえてくると言う。

今後も災害が起こったり、様々な格差が拡大したりといった可能性は決してゼロではない。しかし、「カタリバ設立から18年の間に、市民社会が育った」と実感する今村さんは、どこで災害が起ころうとも人々が駆けつけ、10代の子供たちには大人たちが手を差し伸べる世の中を当たり前にしたいと考えている。すべての10代が意欲と創造性を持てる世の中を目指して、今後も活動を続けるつもりだ。