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Highlighting JAPAN

 

 

毛包器官再生医療技術が開く未来

株式会社オーガンテクノロジーズと国立研究開発法人理化学研究所は、脱毛症などの治療に応用するため髪の毛を作り出す毛包器官を人工的に大量に作る再生医療技術を開発し、動物での安全性確認試験を始めた。

再生医療とは、様々な組織や臓器の細胞に分化し増殖する能力を持つ幹細胞を用い、病気や怪我などによって失われてしまった機能を回復する治療法である。近年、多能性幹細胞の人工的な作製が可能となったことで、そこに適切なシグナルの誘導をかけて腎臓や心臓などの臓器を再生することを最終目標に、世界中で研究が進められている。なかでも日本は卓越した技術を持っており、オルガノイド(試験管の中で多能性幹細胞から培養されたミニ臓器)の多くは日本での成功例である。

再生医療研究は21世紀の新しい医療として期待されており、これまで第一世代の再生医療として幹細胞移入療法や、第二世代としてのシート状の組織再生医療など成果をあげてきた。現在では、次世代再生医療として三次元の器官再生医療の実現が期待されている。辻孝博士率いる理化学研究所生命機能科学研究センター器官誘導研究チームは、既に先行研究として歯や毛包、唾液腺、涙腺、皮膚器官系の再生に成功してきた。今年6月、理化学研究所はオーガンテクノロジーズと共に、髪の毛を生涯にわたって周期的に作り出す毛包器官の再生による脱毛症治療を、ヒトでの実現に向けて、まず動物での非臨床安全性試験へと歩みを進めた。こうした取組により、世界初の器官(臓器)再生医療による日本発「再生医療の産業化」の実現を目指している。

「男性型脱毛症に悩む日本人男性は1800万人と言われており、国内だけでもヘアケア市場は4,400億円にのぼる。人々の関心が高く、育毛剤や内服薬、かつら、外科的な植毛治療まで多岐に渡る巨大な市場がある。国民のQOL向上に向けた科学的エビデンスのある製品開発が重要」と、辻博士は語る。

毛包器官のヒトでの実現に向けた研究開発は容易ではなかった。採取する毛包は少なく、そこから治療用の再生毛包器官原基の数を実用化レベルまで増やすための幹細胞の培養には7年かかった。またミクロン単位の手作業による原基製造を、企業との共同技術開発により迅速に安定した大量製造へと発展させた。さらに移植した再生毛包器官原基が毛穴を作り毛髪を生やすために細いナイロン糸をガイドにし、毛髪の密度の制御も可能とした。

一方、毛包再生技術の事業展開を担うオーガンテクノロジーズ代表取締役杉村泰宏さんは、国家財政を圧迫しない自由診療分野での再生医療産業化の意義を語る。また、オーガンテクノロジーズは再生医療技術を病気治療に限定せず広く応用し、高齢化社会の中で人々の健康寿命を伸ばす「未病」「予防」といったウェルネスイノベーションを目指している。

再生医療は21世紀の医療の中核であり、高付加価値型産業の産業育成は日本にとって戦略的に重要なである。「私たちは国内・国外の両方に向けて、世界的なレベルの研究開発イノベーションを進めており、これから社会実装のミッションを担っています。毛包器官再生医療はそのひとつであり、非臨床安全性試験などを経て2020年の社会実装を目指し、脱毛症をはじめとして、人々のQOLの向上に向けた産業育成を目指していきたい」と、辻博士と杉村さんは口を揃えて今後への意気込みを語った。