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Highlighting JAPAN

 

 

日本を変えるニューシニアたち

元気で、何事にも積極的……そんな単純な括りでは多様性を見落としてしまう。シニア女性向け生活情報誌『ハルメク』編集長の山岡朝子さんはそう語る。様々な価値観を持つシニアが生み出す新たな可能性を聞いた。

シニア向け運動プログラムを提供するジム、シニアも楽しめる店舗を目指すゲームセンターなど、日本では「アクティブシニア」を重視したビジネスが目につくと山岡さんは言う。山岡さんが編集長を務める『ハルメク』は、約16万人の読者を持つシニア女性向け生活総合情報誌。読者層は60代、70代を中心に、50代後半から90代までと多彩である。「ただ当誌の主な読者層の多くは自分たちをシニアとは思っていません。電車で席を譲られるなど、シニア扱いされると驚く層です」

一方で、最近のシニアはみんなアクティブと一面的に捉えるのも正確ではないと山岡さんは言う。「実際には向上心が強くて社交的なタイプの方もいれば、保守的で伝統的な価値観を重視するタイプの方もいて、シニアの考え方や行動基準は様々です。私たちは年代だけで類型化せず、社内のシンクタンクによる調査を基にターゲットを7つのクラスターに分け、主に『アクティブで社交的』『品格と学びを重視する』といったタイプの方々を対象に記事を作っています」他の業種でもシニアの価値観や志向を細かく捉えていけば、今以上に多様なシニア向けビジネスが生まれるだろうと指摘する。

加えて60代、70代のシニアは今も変化や成長の途上と山岡さんは言う。「当誌でスマートフォンの基本的な使い方を特集したら、読者から『使えるようになった』と大きな反響がありました。このことから、新たなチャレンジになかなか踏み出せないシニアは多いものの、最初のハードルを越えればすぐなじむ柔軟性も備えていると実感しました。また読者モデルを募集したときも『一度やってみたかった』と非常に多くの応募があり、ファッションや美容に対する関心の高さが改めて分かったのです。興味の方向性はそれぞれ違いますが、きっかけがあればシニアの活動範囲はもっと広く、深くなっていくはずです」

しかもあと10年もすれば、スマートフォンやインターネットでの検索を既に存分に使いこなしている世代が60代になる。「今はまだ旅行の準備にしても旅行代理店に頼むシニアが大半ですが、次の世代は自分たちで交通手段や宿泊先を調べて決め、好みの場所に自在に旅行するでしょう。これまでと全く違うシニアが誕生すると思います」

日本の人口の3割近くを占め、今後も増えるシニアの力は、日本社会をどう変えるのだろうか。「シニアが培ってきた知識や経験を、若い世代の支援に生かす相互扶助の社会になると期待しています。シニア自身も必要なら周囲の支えを借りつつ、自分の得意分野ではプライドを持って若い世代を支えるという役割を担っていくでしょう。子育ての面では、各自治体の『ファミリー・サポート・センター事業』で、シニアが同じ地域に住む子育て世代を援助する仕組みが生まれています。シニアは地域に役立つことを実感でき、生きがいを得ると同時に、若い世代はシニアの支援で生き生きと暮らし、社会全体が豊かになると思います」

世界で最も高齢化率が高い日本では、多様な価値観を持つニューシニアがそれぞれに暮らしを楽しみ、年齢に関係なく力を発揮できる社会へのシフトが始まっている。それは全ての世代が暮らしやすい社会の始まりであり、やがて世界に訪れる「人生100年時代」の先進事例となるに違いない。