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Highlighting JAPAN

 

復旧への想いを乗せたおもてなし列車

世界有数の規模をもつ阿蘇カルデラ(火山活動でできた陥没地)を走る南阿蘇鉄道のトロッコ列車に乗れば、熊本県を代表する風光明媚な景色を満喫できる。

南阿蘇鉄道(南鉄)の運行区間は、本来、高森駅から熊本市方面へ延びるJR豊肥本線が接続する立野駅間の17.7kmである。しかし2016年4月に発生した熊本地震によって甚大な被害を受け、現在は高森駅~中松駅までの5駅(7.1km)で運転されている(2022年3月末に全線復旧を目指しています)。

南阿蘇鉄道には、3~11月の土日祝と春・夏休暇、ゴールデンウィーク期間中、1日2本トロッコ列車が走る。期間中は国内外からやって来た観光客でにぎわいを見せる。旧国鉄時代の貨物列車を改造した車両内には、当時使われていた扇風機やランプが流用され、ノスタルジックな雰囲気をかもしだす。窓は上下可動式なので、天気が良ければ全開にして、片道約25分の小旅行で南阿蘇の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込むのも良い。

車窓から見える景色で圧巻なのは、阿蘇山を形成する阿蘇五岳である。遠目には巨大なお釈迦さまが仰向けに寝ているようなシルエットのため「釈迦の涅槃像」との別名も持つ。その前には水田や野菜畑の深い緑が一面に広がる。

トロッコ列車の最高速度は時速40kmで、一般的な列車に比べればかなり遅い。南阿蘇地方に点在する水源地など見どころスポットに差し掛かるとさらにスピードを落とし、ほぼ人間の歩行速度になる。そのため、通常なら見過ごしたり、聞き逃したりするような蝶々の舞う姿や鳥のさえずり、草木の匂いまでも体感できる。また、道行く人や農作業中の人が皆、必ずと言って良いほど手を振ってくれるのもうれしい。手を振られれば思わずこちらも振り返し、乗客の間には笑顔の輪が広がる。南阿蘇鉄道株式会社鉄道課の山本英明さんは「地元の皆さんが自然発生的に手を振ってくださるようになりました。南鉄を応援し、全線復旧を願う気持ちの表れだと思います」と話す。

車掌のアナウンスもトロッコ列車の目玉の一つである。阿蘇五岳の成り立ちや南阿蘇の歴史、観光、グルメ情報など軽妙に伝えている。英語、韓国語、台湾語の多言語対応も行っている。

さらに途中駅でもお楽しみがある。南阿蘇白川水源駅は、毎分60トンもの水が湧き出る「白川水源」の最寄駅。南阿蘇は「水の生まれる里」と言われるほど多くの水源があるが、中でもこの白川水源は環境省の名水百選にも選ばれており、多くの人が水を汲みに訪れる。地元のブランド牛「あか牛」のしぐれ煮を乗せた駅弁も駅構内で購入できる。中松駅は駅舎内のカフェオーナーが収集、展示している大小のおもちゃコレクションが名物である。地元の名水で淹れたコーヒーでひと息つくこともできる。また、樹齢400年の「一心行の大桜」までは徒歩約15分である。

現在運休中の中松~立野駅間にも、渓谷の絶景を楽しめる橋梁や温泉など名所は数多い。それらと再びつながる日を目指し、トロッコ列車はこれからもゆっくり走っていく。