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Highlighting JAPAN

 

 

特別な瞬間の提供者 ローラン・グナシア

ローラン・グナシアさんの東京を拠点とするクリエイティブスタジオLa Boiteでは、ファッションブランド、アート、映画、国際慈善団体などの展示会から豪華なパーティーまで、想像力に富んだ文化的イベントを手掛けている。La Boiteの作品には、日本文化の要素がよく取り入れられ、人々を夢中にさせている。

ローラン・グナシアさんは、これまでずっとアートや文化事業に携わってきた訳ではない。かつてはエコノミック・リサーチャーとして銀行業界で働いていたが、その仕事に面白みを感じてはいなかった。文化に興味があったグナシアさんは長編映画のプロデューサーに転身し、カンヌ映画祭に出品した。
「それは、私の人生における一大決心でした。後の人生に影響を与える、ある意味、本当に血迷った決断でしたが、その瞬間からドミノ倒しのように、次々と変化していったのです」とグナシアさんは語る。

マルセイユ国際映画祭のディレクターやファッションブランドアニエスべー (agnès b.) のアートディレクターを3年間務めた後、グナシアさんは将来の妻となる女優の寺島しのぶさんと出会った。そして2007年に独立することを決意し、東京にLa Boiteを設立した。グナシアさんは、大手ブランドのイベント制作を手掛ける際、「鳥瞰図的な視点」で俯瞰し、伝えたいと思う大枠の要素を捉えて、そこからアイデアを生み出すと言う。例えば、ファッションブランドKenzoがイタリア人デザイナーのアントニオ・マラスさんを日本に迎える際に行ったプレス向けのイベントでは、La Boiteは歌舞伎の花道、日本舞踊、日本料理といった日本の伝統的な要素に、より現代的な趣を織り交ぜ、マラスさんの作品にインスパイアされた優美なプログラムを制作した。

グナシアさんは、柔軟な視点を持っていることが、自身の強みであると言う。「私は生まれも育ちも生粋のヨーロッパ人です。それが私のルーツであり、そしてまた、日本的な価値観やライフスタイルの影響も受けています。」女優である妻に加え、女優である母、歌舞伎役者である父と弟という寺島家の一員であることに恵まれているとグナシアさんは語る。これが、グナシアさんと日本の豊かな文化遺産を結び付けている。

「日本には無形遺産が豊富にあります。無形遺産は永遠です」と彼は語り、地震、台風、その他自然災害によって構造物が頻繁に破壊されてきたものの、歌舞伎といった伝統は世代間で受け継がれることによって、生き続けていると指摘する。

「もちろん、私の中にも変化がありました」と、グナシアさんは付け加えた。情報が新しいことで、長く日本の文化に慣れ親しんだ人よりも、日本の魅力におそらく敏感なのだろうと説明する。そして、日本の文化を理解することが、La Boiteにおける制作の手助けとなっている。例えば、京都の美しい平等院で開催されたイベントでは、平等院が建立された平安時代の京都を舞台にした小説『源氏物語』からヒントを得て、平等院とその地域の歴史に基づくプログラムを制作した。装飾にはその小説の要素が反映され、歌舞伎役者の市川海老蔵さんが「宇治十帖」の一場面を演じた。

「私たちがある場所で仕事をする際には、私たちを歓迎してくれる場所に対して敬意を払い、有機的な関係を築く必要があります」とグナシアさんは語る。

グナシアさんは自身の仕事について、「文化的なイベントや活動を通して、ストーリーやアイデンティティを伝える特別な瞬間を提供すること」であると考える。日本に対する深い尊敬の念や理解とグナシアさんの革新的なコンセプトを組合せることで、彼は、イベントに訪れた人々が国境を超えたそれらの束の間の出来事から、いくらかでも影響を受けて帰ることを願っている。