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Highlighting JAPAN

世界に広がる日本の「Matcha(抹茶)」

世界中で需要が増え続けている日本の「Matcha」。「食べる抹茶」にいち早く着目し、海外進出も果たしているトップメーカーの戦略に迫る。

欧米やアジアなど、海外でも人気を博し、今や世界共通語となった「Matcha」。財務省の貿易統計によると、2017年の緑茶輸出額は前年比24.3%増の143億5,748万円で、統計の残る1988年以降で過去最高となった。輸出先として最も大きいのはアメリカで、台湾、ドイツ、シンガポールと続く。世界的な健康志向の高まりから、各国における緑茶の需要が増加し、輸出対象国は年々広がっている。

日本の“茶どころ”といえば静岡県や京都府の宇治市を思い浮かべる人も多いだろうが、抹茶の生産量で国内外ともに高いシェアを誇り、経済産業省の「グローバルニッチトップ企業100選」にも選ばれている企業が愛知県西尾市にある。1888年創業の株式会社あいやである。

西尾市は、台風や豪雨の被害が比較的少ない温暖な気候と、矢作川がもたらす豊かな水資源と肥沃な土壌に加え、名古屋や岡崎など、一大消費地でもある城下町が近くにあったことから茶業が発展した。一般的に、抹茶の製造が盛んな地域は茶産業全体が盛んであるが、西尾市では96%以上がてん茶(抹茶の原料茶葉)を栽培しており、それらは加工用として出荷されることが多いため、あまり知られていないのだという。2017年、「西尾の抹茶」として農林水産省の地理的表示保護制度(GI)に登録された(参照)。GIマークを取得したことで品質への信頼性が増し、さらなる輸出拡大につながると期待されている。

日本では茶文化が発展しており、人々は古くから抹茶を愛飲してきた。ただし、後に作法にとらわれない気軽な煎茶道が流行したように、一般大衆にとっては少し敷居が高いと感じる文化でもあった。「茶道は意義あるものだから続いているし、これからも残っていくのは間違いないと思います。一方で、実際は作法を知らないからという理由で抹茶を飲むことを遠ざけてきた人も多い。コーヒーや紅茶のように飲むことができたら、もう少し気軽なものになっていたかもしれません」とあいやの杉田武男社長は語る。

同社は、1960年頃から「飲むための抹茶」という固定観念を外し、新規マーケットの拡大に挑戦し、抹茶を食品加工用原料とする「食べる抹茶」に新たな活路を見出し、1978年には有機栽培を開始した。1980年代には、各メーカーが食べる抹茶にシフトし、お菓子やアイスクリームといったさまざまな食品のフレーバーとして、日本の食文化の中に定着していった。

2000年代になると市場は海外にも広がり、例えば、アメリカでは健康食品の一つとして、ヨーロッパではカフェや家庭で使われる嗜好品として、徐々に受け入れられていった。同社においても、2001年にアメリカ、2003年にはオーストリアに現地法人を設立し、販売体制を強化したことで年々輸出が増え、2017年の出荷量は国内と海外がほぼ同量になった。

国内では今、他国産との差別化を図るため、抹茶の定義を決めるという動きもある。しかし、杉田社長は「日本製=高品質という箔づけのためだけなら意味がない」と話す。「これが日本の、本物の抹茶ですと言ったところで、相手国のニーズに合っていなければ海外では売れません。定義を決めて本物しか作らないとこだわることより、私たちが考える高品質のものから割安な外国産に対抗できる廉価なものまで、各国のニーズに合わせ、いかに幅広く対応できるかが重要です。競合も増えた今、市場の特性を深く知り、その中で利益を生める体質を作っていかなければ、この先、生き残ることはできないでしょう」。

品質重視か価格重視か、飲用か加工用か、それぞれの国に合わせて柔軟にアプローチを変えることが海外シェアの拡大につながっている。今後の輸出拡大に向け、同社のさらなる戦略に注目が集まる。