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Highlighting JAPAN

微生物のパワーでゴミから資源を

ある日本の会社が、日々の可燃ごみからエタノールを作り出す、新たなバイオリファイナリー技術を開発している。

日本では、可燃性ゴミのほとんどが焼却処分される。その量は年間約6000万トンに上り、熱量に換算すると約200兆キロカロリーに相当する。資源の少ない日本は、ゴミが持つ資源としての潜在能力に早くから着目し、これまで官民が様々なゴミから燃料や原料を生産する研究開発を進めてきたが、コストや安定供給などの課題が残り、実用化には至っていない。積水化学工業株式会社が開発したバイオリファイナリー技術は、日本の長年に渡る夢を実現させようとしている。

バイオリファイナリーとは、微生物の力を利用して、ある物質から別の物質を得る技術で、積水化学はこれを用いてゴミからエタノールを生産する手法を確立した。金属などの不燃性ゴミを除けば、およそどんなゴミからでもエタノールを製造できるという革新的な技術である。

「2008年、私たちはゴミから工業原料を作る開発に着手しました。一般家庭から出されるゴミは、季節や地域によって量や内容物に変動があることが障壁となり、技術が確立するまでに10年の歳月を要しました」と積水化学のBRプロジェクトヘッドの岩佐航一郎さんは話す。

ゴミからエタノールを製造するには、まず、ゴミを低酸素状態で自己燃焼させ、分子レベルにまで分解してガス化する。このガスは大半が一酸化炭素と水素になるため、その環境を好む微生物に代謝させることでエタノールを生産する仕組みである。

積水化学の最初の課題は、これに適した微生物を探すことだった。同社は、アメリカのバイオベンチャーであるランザテック社と共同開発を進め、エタノールを生産するのに最適な微生物を選んだ。次なる問題は、原材料が雑多なものを含むゴミであることから、常に微生物の活性を安定した状態に保ち続けることが難しいことだった。試行錯誤の末、同社はガスの状態をリアルタイムでモニタリングして、微生物にとって不要な成分は様々なフィルターを用いて取り除く、養分が足りない状態であれば微生物の栄養分を添加する、ゴミの量そのものが少ない時は微生物を一時的に休眠させるなどの方法を試み、課題を一つ一つ解決していった。さらに活性度の高い微生物を選別していくことで、家庭や工場などから収集した分別されていないゴミであっても、極めて高い変換効率で安定したエタノールの製造に成功した。

「効率だけを重視するなら、遺伝子組み換え技術で目的に適った微生物を作ることもできます。しかし、それが環境にどう影響するかは分かりません。私たちはあくまで自然界に存在する微生物を用いることにこだわりました」と岩佐さんは話す。

出来上がったエタノールは、プラスチック類の材料となるエチレンに簡単に変換できる。現在日本で製造されるプラスチックを始めとした化学品のほとんどの原材料は、原油から精製したナフサをもとにしているが、いずれこれがゴミ由来に置き換わる可能性もある。

この技術はゴミを焼却しないため、二酸化炭素の排出を抑えられることも大きな利点である。積水化学の試算では、従来のごみ焼却炉で排出されるCO2量と比較し、焼却を止めることで22%、加えて、本技術により石油由来のエタノール製造を代替すること により113%の合計135%のCO2削減となる。

2014年に埼玉県大里郡寄居町のゴミ処理施設に併設したパイロットプラントでは、すでに年間20キロリットルのエタノールが製造されており、質的にも問題ない。積水化学は2019年に、国内のいずれかの自治体と共同でこの技術を事業化する計画である。

「私たちは技術を提供するだけでなく、国内外の自治体、ゴミ処理企業やプラントメーカー、化学品メーカーなどと広く協力体制を築いていきたいと考えています」と岩佐さんは語る。 資源循環型社会の実現を目指す夢が、また一つ現実味を帯びようとしている。