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Highlighting JAPAN

防災準備の実践

東京にある防災体験学習施設「そなエリア東京」は、大規模地震や自然災害発生時の対応力を身に着ける場として広く活用されている。

2010年、国の災害応急対策拠点として、東京都江東区有明地区に広さ約13haの東京臨海広域防災公園が開園した。普段は市民が憩う場所として人気であるが、仮に首都圏で大規模災害が発生すれば、直ちに被災情報の収集や災害応急対策の調整を行う緊急災害現地対策本部や、医療や救助などの活動拠点が設置される。

防災体験学習施設「そなエリア東京」はこの公園内にある。防災の要は平時の「備え」であり、「そなエリア」という名称には「備えを学ぶ場所」という意味が込められている。

 「そなエリア東京は、災害時には現地対策本部となりますが、平時は一般向けの無料防災体験学習施設です。その大きな特徴の一つは、地震発生直後の被災地を再現していることです」と東京臨海広域防災公園管理センター副センター長の澤善裕さんは言う。

施設の1階に防災体験ゾーンがあり、「東京直下72h TOUR」という体験プログラムが提供されている。災害発生後、国や自治体が支援体制を整えるまで約72時間かかると言われる。ツアーの目的は、その72時間を自らの力で耐え抜く知恵を学ぶことである。

ツアーは、あるビルの10階のエレベーターに乗るという設定で始まる。エレベーターが動き出すと間もなく、地震発生を知らせるアナウンスが流れ、最寄階で停止したエレベーターを降りる。照明の落ちた暗い通路を抜けると、参加者達の目の前に、マグニチュード7.3の地震で被災した街をリアルに再現したジオラマが現れる。電柱は傾き、ビルの壁は崩れ、コンビニエンスストアの店内には物が散乱している。緊急車両のサイレンやヘリコプターの音が鳴り響き、街頭の大型テレビにはアナウンサーの緊迫した声とともに被害のニュース映像が流れる。

事前に渡されたタブレット端末には、「コンビニエンスストア内で大規模地震が発生したら、どのようにすべきか」など、災害時の行動を尋ねるいくつかの質問が表示される。タブレット端末を利用したクイズ形式のツアーを通して、参加者は地震発生時の危険箇所を想定し、災害対応能力を向上させる仕掛けとなっている。

また、参加者は、公園に設置された避難場所を再現したエリアで、災害用トイレ、災害時にはかまどとして使用するベンチ、ペットボトルで作られたイスなどの展示を見て、東日本大震災時の避難所を再現したダンボールで仕切られた小さな生活空間を体験する。

このツアーの他、そなエリア東京の2階にある防災学習ゾーンでは、地震が発生する仕組み、首都直下地震が発生した場合の揺れの大きさや被害想定などを学ぶことができる。ペットボトルで作るろ過器、ビニール袋と新聞紙で作る食器など、災害時に身近なものを役立てる方法を学び、新聞紙を用いたスリッパやビニール袋での雨合羽作りなども体験する。

「大災害に遭っても、子どもや孫と一緒に生き延びたいので、ここに来ました。災害からどのように身を守るのか、楽しみながら学ぶことができました」と都内在住の女性参加者は語る。

2016年度には、年間約28万人がそなエリア東京を訪れた。海外からの来館者も増え、これまで約100カ国から観光客、学者、政府関係者などが訪れている。タブレット端末は日本語と英語に対応しているが、2018年4月から、中国語と韓国語にも対応する。

「外国からの来館者には、『あなたの住む地域で災害が少なくても、旅行先で災害に遭うかもしれませんので、常に災害を意識してください』と話しています。そなエリア東京を、外国人の方にも災害を考えるきっかけとなる場所にしていきたいです」と澤さんは話す。

現在、日本の支援により、中国やフィリピンで、そなエリア東京をモデルにした防災学習施設の建設計画が進んでいる。災害対応能力を向上させる体験型施設は平時に活用されてこそ、発災時に効果を発揮する。防災教育を通じた国際貢献は自然災害を多く経験してきた日本の大きな役割と言える。