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Highlighting JAPAN

大雨による災害から命を守るための危険度分布

2017年7月、気象庁は、土砂災害、浸水害、洪水災害の危険度を地図上に色分けしたリアルタイムの分布図を公開し、様々な形で水関連災害への備えを促している。

近年、集中豪雨や台風に加え、局地的な激しい降雨により被害が集中化、激甚化する傾向が強まっている。気象庁はこうした状況に対応し、災害を予測し被害を防ぐため、新たな防災気象情報の開発と公表に取り組んでいる。

「従来の防災気象情報は、市町村ごとに注意報や警報、特別警報などを発表してきました。しかし、これだけでは避難勧告などを発令する自治体担当者も、そこで暮らす住民も、災害の危険が市町村内の「どこに」「どのレベルまで」迫っているのかが分からないという指摘がありました。そのため、2017年から新たに危険度分布の情報提供を開始しました」と気象庁予報部気象防災推進室の高木康伸予報官は話す。

危険度分布の情報は土砂災害、浸水害、洪水災害の3つの災害に関して、危険度に応じた色分けを地図上に示すものである。簡単に言うと、どこに、どのレベルの危険が迫っているかを一目で分かるようにした。主に膨大な雨量分布の予報データのほか、地理データ・災害データを組み合わせて瞬時に解析できるコンピュータと高度なプログラミング技術を用いて、きめ細かな災害予測の実現に導いた。

日本では気象レーダーの発達により、大雨の降っている場所はかなり正確に把握できるようになっている。ただし、地形や地質といった様々な要因により、災害の発生する場所は雨量の多さと必ずしも一致するわけではない。気象庁では、雨量分布の予報データを、精密なデジタル地理データや過去25年分の災害データなどを基に加工して、土壌雨量指数(雨が浸み込んで土壌中にたまる量)、表面雨量指数(雨が浸み込まず地表面にたまる量)、流域雨量指数(雨が上流域から集まり河川を流れ下る量)を解析し、その結果を5色の危険度として10分ごとのリアルタイムで地図上に表示できるようにした。

3種類の危険度分布の情報の中でも、一般の人が特に注意を払って欲しいのは河川の洪水警報であると高木予報官は言う。世界の大河などに比べると、日本の河川、とりわけ中小河川は流域が狭く、勾配も非常に急なため、一旦雨が降ると、ごく短時間のうちに急激な増水と氾濫を引き起こすリスクがあり、近年でも建物からの逃げ遅れによる犠牲者が出ているためである。

「これまで一つ一つの河川の洪水予報は、大きな河川が対象で、水位計の実況データを頼りにしていましたが、新たな危険度分布では、増水のスピードが非常に急激で水位計の少ない中小の河川を対象に、急激な増水を見落として逃げ遅れるケースを回避するために3時間先までの予報データとして情報提供しています。ちなみに、洪水災害の危険度は、地図上の河川の色分けでいうと、危険度の低い方から『水色:今後の情報等に留意』、『黄色:注意』、『赤色:警戒』、『薄い紫色:非常に危険』、『濃い紫色:極めて危険』の5段階があります。このうち『濃い紫色』のみは予測値ではなく実況値に基づき着色されており、もし目の前を流れる川が『濃い紫色』の表示になっていれば、すでに氾濫が始まっている可能性が高く、河川からあふれた大量の水に逃げ道がふさがれ、もはや建物からの立ち退き避難ができなくなっているおそれがあります。一般の人はその一つ前の段階である『薄い紫色』の表示が出た時から、高齢者などのいる家庭ではさらにひとつ前の段階である『赤色』の表示が出た時から、水位計がある河川ならば水位計データも参考に、速やかに避難開始の判断をすることが必要です」と高木予報官は言う。

「過去の事例を振り返ってみると、災害から命を守るために何よりも重要なのは、やはり住民一人一人の主体的な判断です。そのためにも我々は予測の精度を更に高め、その情報を積極的に、しかも分かりやすく提供していきたいと考えています」と高木予報官は語る。

気象庁は、危険度分布の情報の公開により、人々に洪水などが引き起こす災害への注意と防災意識の向上を高めようとしている。図面上の色分けは認識の速さにつながる。初歩的でシンプルな情報ほど、いざというときに効果を発揮するものである。