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超電導ケーブルで省エネを

超電導ケーブルの革新的技術は送電時の大きな省エネ効果が期待されている。

ある特定の物質は非常に低い温度まで冷却していくと電気抵抗が突然ゼロになる。この現象は超電導と呼ばれ、20世紀初頭に発見されたものの、絶対零度(-273℃)に近い極低温域でしか観察できず、長い間、製品への応用には至っていなかった。近年、ようやく比較的高い温度域でも超電導状態となる物質が次々と見つかり、現在、製品化に向けた様々な研究が世界中で盛んに行われている。

神奈川県川崎市に本社を置く昭和電線ケーブルシステム株式会社(以下、SWCC)が、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託を受けて省エネルギーの製品実用化に取り組んでいる「三相同軸超電導ケーブル」もその一つである。SWCC技術開発センターで超電導応用製品開発グループ長を務める青木裕治さんは、電気抵抗ゼロで電気を流すシステムについて次のように語る。

「ケーブルに用いられているのはイットリウム系と呼ばれる超電導体で、その特徴は液体窒素(沸点-196℃)の温度で超電導となることです。医療用のMRI(核磁気共鳴画像法)装置などに採用されている既存の超電導体(例:ニオブチタン[金属系超電導物質]、ニオブサンスズ[金属間化合物超電導物質])は、液体ヘリウム(沸点-269℃)で冷却しなければなりませんが、それに比べると遙かに高い温度でイットリウムの電気抵抗がゼロになります。ヘリウムは将来的には資源が枯渇すると予想されていますが、窒素は大気中に無尽蔵に存在するため、エネルギー源不足の心配も全くないと言えます」

三相同軸超電導ケーブルは、イットリウム元素やバリウム、銅などを含んだ溶液を酸化した緩衝材の金属基板上に薄く塗り、そこに熱処理を施すことによって薄膜の超電導層を形成している。従来、こうした薄膜を製作する工程には真空プロセスが不可欠だったが、新たな製法(MOD法)の開発によりそれが不要となり、原料のエネルギーロスも極めて少なく、低コストで大量の超電導ケーブル生産が可能となった。これらはすべてSWCCが創業以来80年余り電線メーカーとして培ってきた技術やノウハウが可能としたものである。

「たとえ電気抵抗がゼロでも、冷却装置などの導入が必要になれば、コスト的に見合わないのではないかと思う人も多いでしょう。ところが、電気は地産地消が理想的と言われるように、送電に伴うエネルギーロスが非常に大きいのです。現在、発電所ではこの送電ロスを少しでも減らすため、作り出した電気を変圧器で超高圧にしてから消費地に送っていますが、その際、発電機と変圧器を結ぶ母線部分の発熱だけでも相当なエネルギー損失が発生しています。ここに超電導三相同軸ケーブルを使ってロスをなくせば、それだけでも十分採算が取れるようになるのです」と青木さんは言う。

ある試算によると、日本国内の全火力発電所にある母線の電気抵抗によるエネルギー損失は、原油に換算すると年間24万キロリットルにも達する。また、既存の母線は直径700㎜の単相ケーブル3本で構成されるが、これを超電導ケーブルに置き換えると、わずか直径154㎜の単相ケーブル1本だけで済み、省エネルギーによるコスト低減だけでなく省スペースにも大きく貢献する。

「現在、三相同軸超電導ケーブルは実証実験の段階ですが、そこで得られたイットリウム系超電導ケーブル技術は超電導磁石や超電導モーターなど、様々な分野への応用が可能とされています。また、製鉄所や石油コンビナートなど、すでに液体窒素を利用しているプラントでは、超電導ケーブル導入にかかる初期費用やランニングコストを非常に低く抑えられます。将来、超電導ケーブルの開発がさらに進めば、サハラ砂漠に設置した太陽光発電システムで作った電力をヨーロッパに送るなどということも可能になるかもしれません」と青木さんは目を輝かせる。

 実証実験の先に、超電導現象の更なる可能性が広がっている。