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Highlighting JAPAN

麺のチャンピオン

日本中で愛されている長崎名物「ちゃんぽん」は、九州の港町で誕生した。

調理人は、器用な手つきで湯気があふれ出す中華鍋から魚介類と肉と野菜が混ざった具材を掬い上げる。クリーム色のスープと麺を丼ぶりに入れるとすぐに具材を盛る。こうしてできあがった長崎で最も有名な料理は、長崎港松が枝埠頭近くの歴史的に有名なレストラン四海樓で待ちわびる客のもとへ、サッと運ばれていく。

乳白色のスープと太い麺が特徴の長崎ちゃんぽんは、日本でもすぐに認識される料理の1つと言っていい。日本各地にもよく知られたご当地グルメは存在するが、これほど1つの地域と密接な繋がりがある料理はないだろう。

長崎ちゃんぽんは、19世紀後半に中国人移民の陳平順が、日本の西の果ての地である長崎へ渡ってくる多くの貧しい中国人留学生のために、安くて満腹になる栄養価の高い食事として考案したものである。

陳氏のひ孫である陳優継氏によると、留学生の多くは陳氏と同じ福建省出身であり、その地域ではご飯を食べたかを尋ねる一番簡単な表現が「ちゃぽん」であった。

約120年前、長崎の中国人居留地の外れに曽祖父が創業した「中華料理 四海樓」の4代目オーナーである優継さんは、「最初、私の曽祖父は、この料理を単に『シナうどん』(中国麺)と呼んでいましたが、福建省出身者が増えるにつれ『ちゃぽん』として知られるようになり、それがすぐに『ちゃんぽん』になりました」と説明する。

福建省は様々な麺料理が有名で、初代陳氏は新たな故郷とした地で、福建省の名物の1つの湯肉絲麺(あっさりしたスープと麺と細切り豚肉を特徴とする料理)を再現しようと必死であった。

しかし、適切な食材がなかったため、全く新しいバリエーションを編み出すことになった。長崎は港湾都市であり、海産物にキャベツ、もやし、はんぺんなど他の地場産品と組み合わせ、基本的な食材として使用した。これらに麺と鶏骨と豚骨スープが加えられた。

「その結果、ここで簡単に手に入る食材だけを使用した料理が生まれました。この料理のルーツは福建省にありますが、他のいずれの料理とも違うものです。私たちがしばしば、ちゃんぽんを長崎生まれの中華料理だと言っているのはそのためです」と、優継さんは説明する。

長崎ちゃんぽんの独自性は、その遠い親戚であるラーメンが食材を別々に調理して最後に丼ぶりに盛られるのと違い、すべての食材が中華鍋でまとめて調理されることにある。

はじめに野菜と魚介類と肉が高温の油でさっと炒められた後、煮出し汁と麺が加えられ、最後に少量の2種類の醤油で味付けされる。

優継さんによると、中華鍋ですべての具材を混ぜ合わせることで、独特の艶のあるクリーミーな質感が引き出される。

「時々、アレルギーを持つ人が、乳製品が使われていないか心配して尋ねてきますが、クリームもミルクも全く使用しておらず、煮出し汁と野菜、そして麺だけです」と優継さんは言う。

もう1つの特徴は、麺の色と質感である。中国麺は一般的に黄色っぽく、わずかに弾力性があるが、ちゃんぽんの麺は、白く、より柔らかくすべすべした舌触りである。

前者は、かん水と呼ばれる中華料理で一般的に使用される食材のためである。他方、ちゃんぽんでは、長崎産の唐灰汁が使用されているため、変色を防ぐだけでなく、わずかに卵のような独特の風味を麺にもたらす。

また、長崎ちゃんぽんは、その人気が途絶えない点も独特である。その理由として、ちゃんぽんが質素で善意に基づく起源を持つこと、そして、開業からこれまで、調理場に浸透してきたソースや他の調味料の使用を頑なに拒んできたことを優継さんは挙げる。

「これまで長続きしている理由は、それがアイディア食品や流行ではなく、美味しい家庭料理に通じる、満腹になる栄養価の高い食事として作られたことにあると思います。また、今では長崎の住民がちゃんぽんを家で作るようになったことも理由の1つだと思います。ちゃんぽんは、地元の食文化として深く根付き、日本中で非常に愛される料理となりました」と優継さんは語る。