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Highlighting JAPAN

乾燥地での持続可能な農業をガラスの土壌改良材で実現

ガラスを使った土壌改良材が、気候変動による水不足、人口増大による食糧不足などの地球規模の課題解決の鍵となる。

鳥取県にある株式会社鳥取再資源化研究所と鳥取大学乾燥地研究センターの産学協働で「ポーラスα(POROUS ALPHA)」という土壌改良材が開発された。ポーラスαは節水型農業のための土壌改良材であり、サハラ砂漠に近接する半乾燥地帯のモロッコでのトマトやインゲン栽培に試験導入され、良好な成果をあげている。

従業員数10名の鳥取再資源化研究所は、廃ガラスの再製品化を事業としている。竹内義章代表取締役はポーラスαの開発経緯について、「ガラスに貝殻や炭酸カルシウムを加えて焼成し、発泡させる技術を開発したことが当社の始まりです。当初はこれを土木資材として販売したものの営業は苦しいものでした。そんなとき、地元の鳥取大学乾燥地研究センターから、農業用の土壌改良材として利用できないかというアイデアをいただきました」と語る。

日本海に面した鳥取県には日本最大級の鳥取砂丘があり、その砂地を利用した砂丘畑では特産品も誕生している。鳥取大学農学部は、長年この砂地で作物を栽培する技術の開発に取り組み、ラッキョウやネギ、長芋などの栽培を実現してきた。砂丘利用研究施設は、1990年に鳥取大学乾燥地研究センターに改組され、今では総合的な乾燥地の研究をするための共同利用・共同研究拠点として、世界中から研究者が訪れている。

鳥取再資源化研究所が開発した発泡ガラスは多孔質で、土壌に混ぜれば、水や肥料を貯える役割をする。また、ガラスはもともと地中に存在するシリカが原材料なので、環境への負荷も少ない。そこに着目した鳥取大学乾燥地研究センターが土壌改良材としての使用試験を繰り返し、十分な性能と安全性を確認して製品化されたのがポーラスαだ。

ポーラスαの最初の実証実験地はアフリカ北西部に位置するモーリタニア。鳥取大学乾燥地研究センターのモーリタニア人留学生が橋渡しとなった。その後、鳥取再資源化研究所は、ケニア、セネガルでも実証実験を行い、効果が高く評価され、ポーラスαは国際連合工業開発機関の環境技術データベースに登録された。2015年からは、JICAの中小企業海外展開支援普及・実証事業「モロッコ国乾燥地節水型農業技術普及・実証事業」を通じて、モロッコ中部のスス・マッサで普及実証を開始した。

モロッコは大規模農園での生産が盛んな農業大国だ。水の消費量を抑える点滴灌水などの設備が整っており、品質の高いトマトは世界4位の輸出額を誇る。しかし、近年、地下水位が下がり、水資源の枯渇が懸念されている。

鳥取再資源化研究所は、モロッコ農業省管轄のスス・マッサ地域農業開発公団で行った実証実験で、ポーラスαを用いてトマト栽培の水供給量を半分に減らしながら収穫量を28%増やす成果をあげた。

「水の消費量を半分に抑えられるなら、作付面積を増やせるかもしれない。あるいは、モロッコ政府は農業のための灌漑などのインフラ整備を進めていますが、この規模を縮小できるかもしれない。ポーラスαの導入で様々な議論が可能になることを期待しています」と竹内社長は語る。

同社は、今後、一定の需要が見込めれば、現地に生産工場を作る計画で、さらに、同じく乾燥地で大規模農業が展開されているペルーでの実証実験も予定している。

将来は、湾岸諸国への進出も見据えている。外国人留学生の受入れは、事業拡大のための諸外国との相互理解に重要な役割を果たし、国際貢献にも繋がる。

2017年8月、同社は国際協力センター(JICE)のアラブ首長国連邦(UAE)アブダビ首長国インターンシップ事業を通じて、初めて留学生を受け入れた。留学生は現在、同社で研修を受けている。

「私たちのような中小企業が、自分たちの力だけで海外進出をするのは不可能です。鳥取大学の先生方、留学生たち、現地で交渉にあたってくれるコンサルタントやJICA職員、たくさんの方との出会いで、今の私たちがあるのだと思っています」と竹内社長は言う。

世界の陸地面積のおよそ40%は乾燥地で、気候変動による干ばつ、砂漠化などの問題は深刻度を増している。鳥取再資源化研究所は、この地球規模の課題に取り組む人々と手を携えて、これからも研究開発を続けることとしている。