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Highlighting JAPAN

技術で解決できることは技術で対応する

日本の発電所の管理、道路の交通制御などシステムのソフトウェアを手掛けるメーカーが100か国語に対応する点字プリンタを開発している。

株式会社日本テレソフトは、日本に数あるIT企業の中でも異色の会社である。発電所の管理、道路の交通制御などシステムのソフトウェア開発を行う一方、視覚障がい者のためのICT周辺機器を取り扱っている。きっかけとなったのは、行政に携わる人から「視覚障碍者に向けた配布物の制作を点字の作成者に依頼しているが、点字が分からないために間違いに気づくことも細かい注文もできない」という悩みを聞いたことだった。「技術で解決できることは技術で対応する」を企業理念に掲げる同社は、点字を知らない人でも簡単に点字文書を作ることができる点字翻訳ソフトを開発。以来、デジタルデータを点字に変換するピンディスプレイやカラオケ画面の文字(歌詞)を自動的に点字表示する「点字カラオケ」などを次々に開発した。特に国内シェアNo.1を誇る点字プリンタは、日本のメーカーとしては唯一、海外進出を果たしている。

金子秀明代表取締役社長は「開発から設計、製造、販売まで12名の従業員で行っています。点字プリンタは10年以上かけて少しずつ機能の追加や改良を重ねてきました。国を挙げて福祉に取り組む北欧のメーカーが世界市場の70%を占めるなか、10%未満とはいえ我が社がシェアを獲得できているのは、ソフトウェアとハードウェアの両方の開発ができる強みをいかした付加価値が認められていると思います」と話す。

日本テレソフトの点字プリンタは、点字と墨字(点字でない文字)が同時に印刷できるという、他に類を見ない画期的な機能を持つ。点字と通常文を同期させる複雑な技術は、100か国語に対応する多言語化とあわせて高く評価され、平成15年に東京都ベンチャー技術大賞「特別賞」を受賞した。世界的には点字を打刻するプリンタが主流となっているが、同社は紙をピンに押し付ける繊細な機構を採用し、動作音や振動を最小限に抑えていることも特徴である。あえて難しい技術を用いる理由には、「バリアフリーを実現したい」という思いがある。「一般的に点字プリンタは印刷時の音が大変大きく、導入した学校でも生徒が登校する前の早朝しか稼働できないという状況を見てきました。また、障がい者向けに特化した技術開発をしていると商品を障がい者用に限定してしまうことにもなる。だから私たちは障がい者をサポートする健常者にも使ってもらうことを考えました」と金子社長は言う。

日本テレソフトの点字プリンタは、先進国の成熟した福祉の現場に更なるサービスの広がりをもたらした。例えば病院や銀行の窓口業務である。点字に習熟していなくても、薬の内容や飲み方、銀行口座の使用状況など、重要な内容を職員が墨字で確認しながら点字の文書を作成できる。

一方、途上国用機器では、導入だけでなく利用支援も行う。同社は現在、ベトナムにおいてJICAの2016年度中小企業海外展開支援事業~普及・実証事業~に採択されたプロジェクト「障がい者のエンパワメント向上を目的とするICT教育センターの普及・実証事業」に取り組んでいる。ベトナムは人口約1億人のうち視覚障がい者数は100万人、弱視者を含めると300万人に達するとも言われる。視覚障がい者を支援するベトナム盲人協会(VBA)が都市部を中心とした各地にでき始めてはいるが、現状はまだ厳しく、多くの障がい者は、家族に養われて外出しない生活を送っている。

日本テレソフトはVBAと協力し、ハノイとフエ2か所にICT教室を開設し、視覚障がい者が進学や就労の機会を得られるよう、パソコンや事務系ソフトの使い方の学習サポートを行う。

「パソコンやスマートフォンの使用は健常者にとっては操作が快適になりましたが、実は視覚障がい者にとっては扱いにくいものになってしまっています。私たちは、音声や点字で補完する補助機器とソフトウェアを提供することで、このハンディキャップを取り除きたいと考えています」と金子社長は語る。

これまでASEAN諸国へ輸出してきた経験を活かし、湿気対策を施した点字プリンタも既に10台搬入されている。VBAからは大きな期待が寄せられている。