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Highlighting JAPAN

 

日本のデザインの今、そしてこれから


2004年以降、現代デザインを通じた日本文化を伝えるための巡回展が世界各地で展開されている。その出展作品選定委員を務めるデザイン評論家、柏木博武蔵野美術大学名誉教授に話を聞いた。

2004年に始まった日本のプロダクト・デザインを紹介する巡回展「現代日本デザイン100選」が大変好評で、現在その第二弾が開催されていますが、その概要から教えてください。

巡回展「現代日本デザイン100選」は10年の間、継続的に行われた海外展示の企画でした。2014年から「巡回展・新『現代日本のデザイン100選』」が、やはり10年間の企画として始まっています。100点のうち11点は前回同様、戦後のデザインを主導したものを選び、残り89点は2014年以降の「現代」プロダクツを選り抜きました。

海外に出かけた時、人々は、訪問先のショーウインドーやファッション、建物などのデザインを見て、その地の文化を感じ取り、理解していく訳です。巡回展も同じように、現代のプロダクツを通じて日本の文化を見ていただくことが狙いです。例えば、使い手の気持ちに立った配慮や精緻な美意識など、肌理細かい仕上がりを大切にしている日本文化を感じていただければと思っています。

巡回展の評判は如何でしょうか?

若い学生から一般市民まで多くの人が足を運んでくれていて、かなり高い評価を得ています。興味深いことは、前回の巡回展で「これはどうすれば買えますか」「どうしても欲しい」という要望が多くあったことでした。そこで今回は展示プロダクツにEメールやURL情報を添えています。巡回展の目的はあくまで日本文化の紹介展示ですが、見ると欲しくなってしまうわけですね(笑)。

日本のデザインを特徴付けるものはどんな要素でしょうか?

やはり、精緻でよく考えられているという点にあるでしょうね。一例を挙げれば、今回の巡回展に出品されている寺田尚樹さんの「15.0%アイスクリームスプーン」です。このスプーンを握ると手の温度が直ぐに伝わってアイスクリームが簡単に掬えます。視覚的にも優れていて、物凄く磨きこまれた作品です。

もう一つは、伝統工芸の現代的なアレンジですね。中でも漆器は人気が高く、展示品を持っていってしまう人もいるほどです(笑)。鉄瓶、湯たんぽ、陶器、さらに包丁など、日本の伝統やオリジナリティを感じられるものが喜ばれますが、これらは日本の民芸に関わりがあります。

日本のオリジナリティとしての民芸ということですね?

民芸運動を起こした柳宗悦は1936年に日本民芸館を創設した時、「民芸館に来ていただければ、日本の文化がどれほどのものかが一目で分かるようにしたい」と言っています。その後、日本では陶器や家具を中心にクラフトへの関心が高まり、全国的にクラフトを紹介するイベントが増え、世界でも日本のオリジナリティを見出すカテゴリーになっているという訳です。

オリジナリティの追求という点で、1964年のオリンピックが転換点だったと言われます。

オリジナリティに対する意識が強くなっていったのがその頃です。決定的に変わったのはグラフィックデザインです。シンプルな日本の伝統的美意識とモダンデザインの融合を実現した亀倉雄策さんの東京オリンピックのポスターが一石を投じました。これを境にして、日本にも世界一流のデザイナーが誕生するようになったのです。ポスターの主流は商品を前面に打ち出したものですが、日本では美意識を強く打ち出したクリエイティブなポスターがどんどん作られています。これは世界でもまれなことです。

その原点は何だと思いますか。

ごく簡単に言えば、日本の印刷文化の違いだと思います。浮世絵にみられる、制作の分業と連携、高い技術でしょう。その後、明治期からは西洋のポスターからも学びましたが、そのままコピーするのではなく、手法を学び、そこへ日本の伝統的な印刷技術が組み合わされて徐々にオリジナリティが出て来たのです。

そうした日本的オリジナリティを巡回展で確かめていただくことができます。巡回展が読者の皆さんのお近くに行ったときには、是非日本を観光旅行するつもりで見ていただきたいですね。