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Highlighting JAPAN

阿寒:太古の記憶

34ヶ所が指定されている日本の国立公園を紹介するシリーズとして、北海道の阿寒国立公園を訪ねた。

阿寒国立公園は、日本列島を構成する主要4島の一つで、最北に位置する北海道にあり、東京からわずか1時間40分という距離ながら、別世界が広がる。その手付かずの自然が見せる迫力は、ここを訪れた者なら誰しも忘れられないことだろう。

旅の始まりは長閑(のどか)すぎると言っていいほどであった。女満別(めまんべつ)空港から車で5分。辺り一帯はすでに農地に囲まれる。道路の両側には、見渡す限り広大な大地が広がり、小麦、ジャガイモ、ホウレンソウ、メロンが栽培されている。北海道のどこまでもまっすぐに続く道でその進みを止めるのは、時折見かける農業用トラクターだけだ。特に夏はそれだけと言っていいだろう。一面が雪で覆われる冬になると、運転は困難になる。道路頭上に設置された矢印の標識は、車が道路脇へ滑り落ちないように、路肩の位置を示したものだ。

屈斜路湖と摩周湖のカルデラに近づくにつれ、針葉樹林で覆われた高い山々が現れ、より険しい景色が目に飛び込んでくる。摩周湖周辺に設けられた展望台は、その趣深い景色を眺めながら感慨に浸りたい最初の観光スポットだ。何千年もの間、湖面に触れるのは風だけだった摩周湖。静寂に包まれたコバルトブルーの湖水は、この世の何にも劣らないほど自然のままの色を保ち、同時にこの世のものとは思えない美しさを見せている。

摩周湖からほど近く、細い山道を進んでいくと、「神の子池」と呼ばれる池がある。規模ははるかに小さいが、摩周湖に勝るとも劣らない神秘的な風景がそこにある。池の底には、おそらく何千年も昔に倒れたであろう木々が沈み、その様子がはっきりと見えるほど、アクアマリンの湧水は透き通っている。水温は一年を通して8度と一定しており、これらの倒木が腐ることはない。森の中にひっそりと佇むこの小さな湖が偲ばせる太古の風情は、木々の間からどこからともなく聞こえるセミ達の大合唱によって、さらにその趣を増している。

900ヘクタール超の広大な牧場からその名が付けられた「900(きゅうまるまる)草原」では、北海道ならではの壮大な景色を360度のパノラマビューで楽しむことができる。しかし、お楽しみはそれだけではない。ソフトクリームや、気が向けば「パークゴルフ」にも挑戦したい。

道中では、硫黄山から硫黄を含んだ白煙が噴出している光景を目にすることができる。山が活動していることに気付かされる瞬間だ。硫黄山周辺の自然の山道では、野生のローズマリーが一面に広がっている。6月から7月にかけてその白い花が満開になる。また、10月から3月にかけては、星を眺めに多くの人が硫黄山を訪れる。

現在、硫黄山は落石の危険性があることから立ち入り禁止となっている。しかし、日本百名山に選ばれた雄阿寒岳(おあかんだけ)(標高1,370 m)と雌阿寒岳(めあかんだけ)(標高1,499 m)をはじめ、藻琴山(もことやま)(標高1,000 m)や西別岳(にしべつだけ)(標高800 m)など、近隣には山頂まで登れる山もある。どの山にも、初級者から上級者まで楽しめる登山道があり、そこからまるで絵画のように美しい風景が楽しめるだろう。

硫黄山周辺には温泉が湧き出しており、多くの旅行客がここで旅の疲れを癒すため、川湯温泉に宿泊する。森の中の露天風呂に浸かると、太古の記憶が蘇るような気分になる。

心身ともにリフレッシュしたら、翌朝早めに起きることをお勧めしたい。日が昇る前に屈斜路湖を望める峠へ登り、まばゆいばかりに輝く日の出を迎えたら、かの有名な雲海がお目見えするかもしれないからだ。

阿寒国立公園内の奥深く、阿寒湖のほとりにアイヌコタン(コタンとはアイヌ語で村を意味する)がある。アイヌコタンでは、北海道の先住民族アイヌが、民芸品、飲食店、博物館、そして素晴らしい舞台を通じ、アイヌの文化を継承、発展させている。30分間のアイヌ古式舞踊では、アイヌの素晴らしい歌と踊りが披露される。女性ダンサーが髪を繰り返し激しく振り乱して踊る「フッタレチュイ」(黒髪の踊り)は実に感動的だ。また、竹製の細長い板についている紐を引っ張り、口の中で弁を振動させて音を出すアイヌの楽器「ムックリ」を女性2人が奏でるデュエットは、まるで催眠術をかけられたように魅了される。

阿寒湖畔エコミュージアムセンターでは、阿寒地域の自然環境を知ることができる。ここで最も人の目を惹くのは、緑の藻の球体「阿寒湖のマリモ」である。特別天然記念物に指定され、そのほぼ完全な球体は、阿寒湖の澄み切った湖水の穏やかな流れが長い月日をかけて形成されるものだ。

湖上に戻ったら、手付かずの自然が残る阿寒湖を隅々まで見て回ることができるモーターボートツアーも逃せない。阿寒国立公園へとお急ぎの方も、ぜひ乗っていただくことをお勧めする。