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Highlighting JAPAN

飛騨への巡礼

アニメ映画「君の名は。」の大ヒットで、岐阜県飛騨市に多くの観光客が訪れている。

日本では、アニメや漫画の舞台となった場所を、ファンが「聖地」と呼び、こうした聖地を実際に訪れる「聖地巡礼」が人気となっている。近年、観光地としての知名度が低かった町が、突然、聖地として注目され、国内外から多くの人が訪れるようになり、経済効果だけではなく、移住者の増加など、地域活性化へとつながった例も増えている。

岐阜県飛騨市も、昨年から注目を集めている聖地の一つである。飛騨市にある飛騨古川駅や飛騨市図書館などが新海誠監督のアニメ映画「君の名は。」に一部イメージとして登場している。これは、田舎町に住む女子高校生と東京に住む男子高校生の身体が入れ替わるという物語で、2016年8月の公開以来、日本国内の観客動員数が2016年12月現在1500万人を超える大ヒットとなっている。

「飛騨市の観光の中心は城下町の街並みが残る古川町です。ただ、近隣の高山、白川郷、下呂温泉と比べると、知名度はそれほど高くありませんでした」と飛騨市役所観光課の砂田貴弘さんは話す。「飛騨市古川町の古い町並みと呼ばれる場所は年間25万人前後の観光客が訪れています。『君の名は。』公開後に聖地巡礼で訪れたと思われる来訪者は、多い月で1万人ほど増えています」

JR高山本線の飛騨古川駅、気多若宮神社、飛騨市図書館など、映画に登場する場所のモデルとなったとされる場所(=聖地)には、連日、高校生から40歳代という幅広い層のファンが数多く訪れるようになった。映画の中で登場人物が食べていた飛騨地方の郷土料理で、潰したご飯を串焼きにした五平餅の売上も急増した。

飛騨市もファンが聖地巡礼を満喫できるように心配りをしている。その1つとして飛騨市観光課は、登場した場所の問い合わせが増えると考え、市内を案内するマップを作成し、観光案内所で配布、また、ウェブサイトでも様々な情報を発信している。

飛騨市図書館は、図書館を訪れるファンに対して、図書館内で利用者の迷惑にならない程度の写真撮影を許可し、SNSへ投稿する際は「飛騨市図書館に来たよ」と記載して下さいとのお願いを館内に掲示し、併せてその掲示をツィートした。こうした図書館の柔軟な対応がファンから称賛されるとともに、メディアにも取り上げられ、さらに多くのファンを集める結果となった。

飛騨市を訪れた人々からは「映画の世界に入り込んだみたい」、「すごく楽しい。映画のシーンを思い出してドキドキする」、「地元の人が話す方言が映画の登場人物が話す方言と同じだったので感激した」といった感想が上がっている。

聖地以外の飛騨市の魅力にも気付く人も増えている。古川町は、色とりどりの鯉が泳ぐ瀬戸川があり、白壁の土蔵と古い町家が保全された静かな城下町で、これまでの観光客の年齢層は高めだった。しかし、初めて古川町を訪れた多くの若者から「聖地を見に来たけれど、それ以上に古川の街が気に入った」、「古い街並みは心が落ち着く。ここに住んでみたい」といった声が聞かれた。

一方、飛騨市には映画館がないために、「君の名は。」を見ていない市民も多かった。そこで、飛騨市観光課は市民のために2016年11月と12月に、古川町のホールで特別上映会を開催した。映画の世界を共有したことで、地元住民にも聖地巡礼という行為を理解する人が多くなり、地元住民とファンとの交流も広まった。

「飛騨市では、人々の暮らしの中に、この地方の持つ素晴らしさを発見するという取り組みを続けてきました」と砂田さんは言う。「地元の人々の努力により、日本の原風景ともいえる景観が今も守り続けられている地域もあります。聖地巡礼をひとつのきっかけとして、地域の魅力をさらに多くの人へと広めていきたいです」