Home > Highlighting JAPAN > Highlighting Japan February 2017 > 脱東京/地方創生

Highlighting JAPAN

復興のワイン

福島県の新しいワイナリーが、美味しい新商品を販売しながら、地元の果物産業の復興支援を行っている。

米、野菜、果物など様々な農産物の生産が盛んであった東北地方の農業は、2011年3月11日に起きた東日本大震災によって大きな被害を受けたが、震災から約6年を経て、被災地の農業は徐々に復興しつつある。そうした中、東北の農業の新たな可能性を生み出すプロジェクトが始まっている。そのひとつが、果物の産地として知られる福島県での「ふくしま逢瀬ワイナリー」プロジェクトである。

ふくしま逢瀬ワイナリーは、三菱商事復興支援財団が福島県郡山市と、2015年2月に連携協定を締結し、ワインやリキュールなどの生産・販売を通じて6次産業化に取り組み、福島の農業に新たな付加価値を創出するために建設された。

「最初からワイナリーを造ろうと思っていたわけではありませんでした。地元の農業関係者の方々と議論を重ねた結果、フルーツの付加価値をより高めるお酒を生産しようということになりました」とワイナリーの代表理事で同財団の事業推進リーダーを務める中川剛之氏は語る。「郡山市と連携協定を結んだ際、震災から5年の節目を迎える翌2016年3月には最初の商品を出荷するという目標を立てました。そのためには、2015年の秋に収穫されるフルーツを醸造する必要があり、それまでにワイナリーを完成させなければなりませんでした。まさに時間との戦いでした」

2015年5月に着工し、それからわずか5ヵ月後の10月にはドイツ製の蒸留機を備えた最新のワイナリーを完成させ、経験豊富な醸造責任者も迎え入れた。また、郡山に財団の駐在事務所を設置し、工事と並行して、果樹農家や市と接触を重ねた。財団スタッフは耕作放棄地を農家と共に開墾して新たなブドウ畑を作るなど様々な活動を続けながら、地元との信頼関係を築き上げていった。

「私たちの使命は、福島の果実の魅力を伝える高品質の果実酒を継続的に作ることです」と中川氏は言う。「そのために、高品質の果物を生産できる確かな技術を持ち、若い後継者がいる農家の方々にプロジェクトに参画して頂いています」

こうして、当初の目標どおり2016年3月には、福島県産ブドウを使用した、フレッシュで甘い香りが特徴のスパークリングワイン「Muscat Bailey A Rosé 2015」500本、そして同じく県産リンゴを使った、芳醇な甘味と酸味のバランスに優れた「Cidre 2015」5,000本が初出荷された。また、11月からはワイナリーでの販売や有料試飲も行われるようになり、2017年2月には県産の桃と梨を使ったリキュールの「Pêche」と「Poire Japonaise」がそれぞれ2,000本ずつ発売された。

これらは、まずは福島県内のホテルやレストラン、観光施設などを中心に販売され、徐々に生産量を増やして首都圏などへの販路拡大を目指している。さらに、メルローやシャルドネなど、ワイン用のブドウがそれぞれ3品種ほど選定され、福島の気候風土に合ったブドウ品種を探る挑戦が、地元農家と共に始められている。栽培に当たる農家は、栽培研究会を結成し、ワイナリーの醸造責任者と意見交換したり、東北や北海道のブドウ作りの現場を確認したりしながら、3年後の初収穫を目指している。

「1年目は1万本からスタートしましたが、徐々に生産量を増やして、最終的には年産7〜8万本に持っていく予定です」と中川氏は言う。「最初の地固めは財団の支援で行っていますが、いずれは地元の方々に事業を委ねていきたいと考えています」