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Highlighting JAPAN

着物に新しい息吹を

デザイナーの古城里紗氏は、アートの歴史への深い理解を、繊細で、古くから続く工芸である伊勢型紙の図案に活かしている。

着物の生地のデザインは伝統的に、柄を生み出す「図案師」、型紙に柄を彫る「型彫師」、そして、その型紙を使って生地を染め上げる「染師」の技によって描かれる。

古城里紗氏は、近年、着物の柄に現代的なセンスを吹き込んだことで注目を集めている「図案師」である。

古城氏は高校生の時に家族とアメリカのボストンに移住、ニューヨークのスクール・オブ・ビジュアル・アーツ大学でグラフィックデザインを学んだ。2004年の卒業後、フリーランスのグラフィックデザイナーとなったが、2010年に日本へ帰国した。

「優れたクリエイターは例外なく自分のバックグラウンドを理解し、それを自分の表現の中にオリジナリティとして落とし込んでいます」と古城氏は言う。「では、私のバックグラウンドとはいったい何なのかと考えたのです。それをしっかり正視しなければ、いつか自分は行き詰まってしまうと思い、日本に帰る決心をしました」

古城氏は帰国して間もなく、伊勢神宮で式年遷宮の準備が行われていた時期に、仕事で三重県に滞在することになった。式年遷宮とは、20年に一度、全ての社殿を新たに造営し直すという祭事で、1300年にわたって伊勢神宮で繰り返されてきた。三重県やその周辺の和歌山県、奈良県には、伊勢神宮の他にも、世界遺産の熊野古道など、長い歴史をもつ聖地が数多くある。

「三重県での滞在中、様々なカルチャーショックを受けました。例えば、『花の窟』という巨岩を祀った神社を訪れた際には、空間の持つエネルギーに圧倒されました」と古城氏は言う。「地元の人々は『自分たちは神様に守られている』という感覚を強く持っていました。日本では目には見えない力への畏敬の念が古代から現代に至るまで、脈々と受け継がれているということが分かったのです。その時、自分が探していたバックグラウンドに近づけたと感じました」

そして、古城氏は三重県で1000年以上の歴史を誇る伝統工芸「伊勢型紙」と出会う。「伊勢型紙」は着物の生地に柄を染めるため使われる型紙である。伊勢型紙の最大の特徴は、その精緻な柄であり、図案師の図案に基づき、型彫師が彫刻刀を使い、和紙に模様を彫り抜いていくことで作られる。古城氏は、グラフィックデザイナーとしての仕事をしながら、自らのアート表現として、切り絵による作品作りに取り組んでいたこともあり、伊勢型紙の見事な柄、それ生み出す職人の技に魅了された。

古城氏は型紙の図案を学びながら、職人との交流を深めていった。やがて伊勢型紙の型彫師の匠から図案師になるよう勧められる。「着物が未来へと残っていくためには、あなたのような新しい図案が必要だ」という理由だった。

「図案は必ず手で描きます。筆圧や息づかいの違いで、手作業ならではの『間』や『揺らぎ』が生まれるからです」と古城氏は言う。「図案に限らず、着物の職人技にはそうした『不均一の美』が生きています」

古城氏は、伊勢型紙の図案師として着物の柄をデザインするだけでなく、切り絵のワークショップや、伊勢型紙の技法を活かした自らのアート作品の展覧会など、様々なイベントも積極的に主催している。

「手作りだからこそ生まれるものが人を豊かにしていくということを、私は確信しています」と古城氏は言う。「作品を通して人とコミュニケーションすることが私の作品作りの原点となっています」