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Highlighting JAPAN

顔認証で安全、安心な社会へ

顔認証技術の幅広い応用が世界で広がっている。

近年、社会の情報化やネットワークサービスの普及に伴い、機械を介して本人認証を行う場面がますます増えてきている。通常、こうした場面で個人認証を行う場合には、パスワードや暗証番号などを利用する「知識認証」と呼ばれる方法、または磁気カードやICカードを用いる「所有物認証」と呼ばれる方法が一般的だ。しかし、これらの方法は、パスワードの忘却・漏えい、カードの盗難・偽造などのリスクがあり、十分な方法とはいえない。その点、「生体認証」なら、このようなリスクがないという利点がある。

現在、広く利用されている生体認証には、指紋、手のひらの静脈、瞳の中の虹彩などを利用した技術が挙げられるが、最近では他の生体認証に比べて大きな利点がある「顔認証」が注目を集めている。その理由は、第1に、「認証を行うための特別な行為が必要ない」ことである。ユーザーが指や手をかざすなどの操作が不要なため、スピーディで利便性に優れた認証が可能となる。第2に、「ユーザーの心理的負担が少ない」ことである。顔は、普段から人間が相手を識別する手段として利用しているため、自然な認証が可能となる。

顔認証は、2001年の米国同時多発テロ後に進む安全性の強化を背景に、世界各国で主に出入国管理、犯罪捜査系システムなど国の安全保障に関わるインフラ分野で活用されてきた。しかし近年では、企業のセキュリティや出勤管理システム、テーマパークの入場ゲートシステムに使われるなど、急速に、一般の人々にも身近な技術になってきている。

この顔認証技術で、世界のトップを走っているのが大手ICT企業のNECだ。NECは1989年から顔認証技術の研究を開始している。

「顔認証には、照明、影、顔の向き、表情などの変動影響を受けやすいという特性があります。そのため、さまざまな環境下における照合の精度アップが課題でした」とNEC第二官公ソリューション事業部マネージャーの志賀俊介氏は言う。「例えば、日本のパスポートは有効期限が10年ですので、10歳年を取っても同一人物と認証される必要があります。また、彫りの深い顔立ちの人は、照明の加減で目の周りに影ができます。こうした条件でも正確に認証できることが求められるのです」

顔認証で特に重要な「精度」と「スピード」を高めるために、NECでは、画像の中から対象となる顔の位置を高速かつ高精度に探し出す顔検出技術、経年変化や表情変化に関わらす安定して顔の特徴を解析する顔特徴点検出技術、あらゆる場面で誤照合を限りなくゼロに近づけることを目指した高精度顔照合技術などの研究開発を続けている。

その結果、NECの顔認証技術は、米国国立標準技術研究所(NIST)が2009年、2010年、2013年と行ったベンチマークテストで、3回とも1位を獲得している。2013年のテストでは、高解像度の顔画像の検索精度において、NECは第2位の企業の半分以下の認証エラー率3.1%を実現していた。

現在、NECの顔認証システムは、国の安全保障に関わる分野において、世界40カ国以上で活用されている。例えば、米国のジョン・F・ケネディ空港では、入国管理用の自動ゲートで読み取ったICパスポートの顔写真データと、ゲートに備え付けのカメラで撮影した旅行者の顔画像をリアルタイムで照合し、同一人物であるかを高精度で判定している。また、ブラジルの主要14空港では税関に導入され、過去の不正履歴から要注意人物を検知して税関業務の効率化に寄与している。

「今後、監視カメラなど周辺デバイスの性能や、人工知能を活用したデータ解析技術などが向上することで、さらに用途は広がるでしょう」と志賀氏は言う。「事件や事故を未然に防ぐ技術開発で、社会の安全に貢献したいです」